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【小説】マザージャーニー / 変われ、夏 3
本作は2020年「News Picks New School 大友啓史×佐渡島庸平『ビジネスストーリーメイキング講座』の6ヶ月間で作り上げ、kindleには販売中の小説です。
この6ヶ月間は私にとって、転機となる半年間でした。知りたかった学び、出会いたかった仲間、本当に楽しく作品と向き合い続けることができました。
本作を完成させるにあたり、大友啓史監督、株式会社コルク 代表取締役 佐渡島庸平さんはじめ、同じ受講生の仲間たち、運営スタッフのみなさま、そして新たなチャレンジを応援してくれた夫より、多くの助言をいただきました。
note用に少しだけ微修正してます。
ぜひご覧くださいね。
↑はじめからはこちらより
今日も田んぼの畦の草取りをしていた。と、聞きなれた声が背中から聞こえた。
「おうい。双葉ちゃん、スイカ食わねえか」
振り向くと、山笠をかぶった登さんが、向こう側の畦に立っていた。
「わ! えっ! 登さん! 帰ってきたんですね! よかったあ! よかったあ!」勢いよく立ち上がり、飛びはねた。
「スイカ食って、ちったあ休まねえかい」
「はい! 食べます!」
登さんのうしろをついていき、家に向かう。いろんな話を聞いてもらいたかったが、ことばが出なかった。聞いてもらいたいことが、ありすぎた。
登さんは、家の脇の水桶に入ったスイカを持ち上げた。スイカをすべり落ちる水が、かがやく。田中のおばちゃんのクリームパンな手とはまた違った、動物みたいな黒い手が、古い包丁でザックザックと豪快に切る。
玄関に二人で座って、真っ赤なスイカをかじった。かじるたびにスイカからあふれるしずくが、手や喉からぼたぼた落ちる。
玄関の向こうはじりじりと炙られ、まぶしくて、まっしろに見えた。セミの鳴き声は、あいかわらず空気をこすり続けて、それだけで体もひりひりした。けれど、それとは正反対の、うす暗い玄関の土間。そこに座ると、体が耳を澄ませるように、静かになるのを感じた。
「双葉ちゃん、この前は、ありがとうなぁ」
ひんやりした土間に、登さんはぽつりとことばを置いた。
「ううん」
「……おらは、いつ死んだっていいんだ」
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