【小説】マザージャーニー / つきる、秋 1
本作は2020年「News Picks New School 大友啓史×佐渡島庸平『ビジネスストーリーメイキング講座』の6ヶ月間で作り上げ、kindleには販売中の小説です。
この6ヶ月間は私にとって、転機となる半年間でした。知りたかった学び、出会いたかった仲間、本当に楽しく作品と向き合い続けることができました。
本作を完成させるにあたり、大友啓史監督、株式会社コルク 代表取締役 佐渡島庸平さんはじめ、同じ受講生の仲間たち、運営スタッフのみなさま、そして新たなチャレンジを応援してくれた夫より、多くの助言をいただきました。
note用に少しだけ微修正してます。
ぜひご覧くださいね。
↑はじめからはこちらより
田んぼは少しずつ黄金色に変わっていった。
畦に立つと、生あたたかな風が吹き、大きなくじらが山のあいだをゆったり通っていくように、稲穂の海は波打った。
その波は、私のところまでやって来る。
やさしくて、おだやかってこういうことかな。風が汗をすくい取ってゆくままに、私はずっと畦に立っていた。
お父さんは電話をすることが多くなった。田んぼから帰ってきた私は、台所のテーブルで今日の農業日記を読んでいた。
〈農業日記〉
八月十二日(金)晴れ
時間がない。どう考えても無理ゲー。現場作業しながら事務管理しながら、助成金申請の書類作りながら、地域の人とのコミュニケーション。そこに家のことが加わる。無理だー。子育てしながら農業って、とか新しいことやるって、どうしたらいいんだ。疲れた。お盆なのに遊びに連れてけなくて、双葉に怒られた…
【経営・作業メモ】
4:00-6:00草刈り 9:00-12:00地域の訪問 13:00-18:00書類作成、電話、夕方からもう一回訪問、涼しくなってから草刈り続き
私の心のおだやかさとは逆に、最近、日記の雰囲気が変わってきた。お母さんはなにか新しいことを始めようとしているようだった。それまでも忙しそうだったが、さらに辛そうだった。
助けてあげたいけど、もうできない。あのころ、何も知らなかった自分にいらだった。しかも日記では、私がいることでお母さんが大変そうだった。お母さん、何があったの?やっぱり私は、じゃまな子だった?
いつも「ちょっと待ってね!」が口ぐせだったお母さん。
いくら待っても、お母さんは来なかった。お母さんにとって、私の順番はずっとずっとずっと後ろで、そしていつかその順番待ちしてることさえ忘れられて。
―ごめんなさ
「双葉」
と、ドアの向こうで電話を終えたお父さんがやって来た。えんぴつと一緒に本を閉じた。最後の「い」が書けなかった。
「明日、初盆だから、居間、少し片付けれるかな」
「はつぼん?」
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