【小説】マザージャーニー / めぐる、冬 4
↑はじめからはこちらより
↑こちらに全話まとまってます
↑前話
「お父さーん!」
山に入る農道を走りながら叫ぶ。夜の山はそれ自体、大きなおばけのようで怖い。けどたぶん、お父さんはこの山のどこかにいる。私の勘だ。
「お父さーん。お父さーん」
走って走って走った。
知っている田んぼ、畑、道、ぜんぶ頭の中で塗りつぶし、走り尽くした。
「お父さん……」
咳き込みながら膝に手をやる。と、お父さんが春に買ってくれたピンク地にハート柄の長ぐつが目に入る。どろどろになって、ハートの柄も薄れてきちゃった。ああ、この半年間、ずっと一緒だったな。
「お父さん……」
足の裏が痛い。
荒い息で胸を上下させながら、私が飛んだ日、遠くで聞いたお父さんの声を思い出した。
お父さんもこうやって、私のことを探していたのかな。震えて、胸がいっぱいで、怖くて、必死になって、どろどろになって……。
「……ごめんなさい……」
涙がにじむ。
行け、私。だってお父さんは、私を見つけてくれた。
私はまた、走り出した。
運命から?運命から抜け出したい。
運命の向こうに行きたい。
走れ。走れ、もっと走れ、私のからだ。
ここから先は
1,192字
いただいたサポートは、里山農業からの新しいチャレンジやワクワクするものづくりに投資して、言葉にしてnoteで届けてまいります!よろしくお願いします。