【小説】マザージャーニー / めぐる、冬 5
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↑こちらに全話まとまってます
https://note.com/kanakosato/n/nbcfe75941e1d
↑前話
思い出した。
床に落ちた、ぐちゃぐちゃのミルクレープを。
私の誕生日のケーキだよってテーブルに出てきたミルクレープは、ところどころ破けていて、みっともなかった。想像していたいちごのケーキではなかった。
今までだってそうだ。みんなみたいにかわいいお弁当じゃない。旅行も連れてってくれない。家でもいつも仕事。いつも私の方を向いてくれない。でも私はいつも、お母さんの横顔か、背中ばかり見ていた。
―ねぇ、聞いて聞いて
―いま大事な電話してるの!
いつもそうだった。私よりほかに、もっと大事なことがある。
あのみっともないミルクレープの誕生日ケーキを前にして、いろんなことを思い出して、ケーキを床に投げつけた。
お母さんが書いたらしい「ふたばちゃん、お誕生日、おめでとう」と、なんとか読めるチョコプレートが、ぽきりと真っ二つに割れているのを思い切り踏みつけ、私は二階へ逃げた。
結局それは、お母さんが作ってくれた最初で最後の、誕生日ケーキになってしまった。
ありがとうなんて、言えなかった。
「なんでみんな……本当のこと、言ってくれないの……」
涙があふれた。
そうだ。あの場所に行ってみよう。手紙にあった、丘の田んぼへ。
目をふいて、杉林に囲まれた坂道を登ってゆく。
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