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【小説】マザージャーニー / めぐる、冬 5

本作は2020年「News Picks New School 大友啓史×佐渡島庸平『ビジネスストーリーメイキング講座』の6ヶ月間で作り上げ、kindleには販売中の小説です。

この6ヶ月間は私にとって、転機となる半年間でした。知りたかった学び、出会いたかった仲間、本当に楽しく作品と向き合い続けることができました。
本作を完成させるにあたり、大友啓史監督、株式会社コルク 代表取締役 佐渡島庸平さんはじめ、同じ受講生の仲間たち、運営スタッフのみなさま、そして新たなチャレンジを応援してくれた夫より、多くの助言をいただきました。

note用に少しだけ微修正してます。
ぜひご覧くださいね。

↑はじめからはこちらより

↑こちらに全話まとまってます

https://note.com/kanakosato/n/nbcfe75941e1d

↑前話


思い出した。
床に落ちた、ぐちゃぐちゃのミルクレープを。


私の誕生日のケーキだよってテーブルに出てきたミルクレープは、ところどころ破けていて、みっともなかった。想像していたいちごのケーキではなかった。
今までだってそうだ。みんなみたいにかわいいお弁当じゃない。旅行も連れてってくれない。家でもいつも仕事。いつも私の方を向いてくれない。でも私はいつも、お母さんの横顔か、背中ばかり見ていた。


―ねぇ、聞いて聞いて

―いま大事な電話してるの!

いつもそうだった。私よりほかに、もっと大事なことがある。
あのみっともないミルクレープの誕生日ケーキを前にして、いろんなことを思い出して、ケーキを床に投げつけた。


お母さんが書いたらしい「ふたばちゃん、お誕生日、おめでとう」と、なんとか読めるチョコプレートが、ぽきりと真っ二つに割れているのを思い切り踏みつけ、私は二階へ逃げた。


結局それは、お母さんが作ってくれた最初で最後の、誕生日ケーキになってしまった。


ありがとうなんて、言えなかった。


「なんでみんな……本当のこと、言ってくれないの……」

涙があふれた。


そうだ。あの場所に行ってみよう。手紙にあった、丘の田んぼへ。
目をふいて、杉林に囲まれた坂道を登ってゆく。

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1,745字

■この航海はどんな旅? 言葉の力を通じて、争いのない、心うごく世界を作る道のりを共有する、「好奇心と…

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