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【小説】マザージャーニー / 変われ、夏 1
本作は2020年「News Picks New School 大友啓史×佐渡島庸平『ビジネスストーリーメイキング講座』の6ヶ月間で作り上げ、kindleには販売中の小説です。
この6ヶ月間は私にとって、転機となる半年間でした。知りたかった学び、出会いたかった仲間、本当に楽しく作品と向き合い続けることができました。
本作を完成させるにあたり、大友啓史監督、株式会社コルク 代表取締役 佐渡島庸平さんはじめ、同じ受講生の仲間たち、運営スタッフのみなさま、そして新たなチャレンジを応援してくれた夫より、多くの助言をいただきました。
note用に少しだけ微修正してます。
ぜひご覧くださいね。
↑はじめからはこちらより
なんで、こんなことになってしまったんだろう。
私は田んぼの前で、立ちつくしていた。
梅雨が明けたとたん、空気がガムみたいにべたべたくっついてくるようになった。私の背中をけたたましく打つ、セミの声。長靴の底から、地面に溶けそうな暑さ。自分の皮をべろりと剥いで、ごしごし洗う想像をいくつもした。
早朝に草取りをするようになってから、夜にお母さんの農業日記を読み、その文字のゆらぎとともに、眠りにつくようになった。
お母さんの丸みがかった文字は、音のない子守唄だった。
〈農業日記〉
七月二十一日(木)晴れ
ほんとに暑い。
畑で草取りをしていて、立ち上がった途端、目の前が真っ白になった。気持ち悪くなって、しばらく動けなかった。気をつけねば。
【経営・作業メモ】
熱中症注意。水筒は2ℓものに替える。休憩中に、首と脇を冷やす。
塩飴、追加で買う。
―お母さんも、暑い中、がんばってたんだね。私も気をつけるね。
そう書いて、私は翌日、お父さんに塩あめを買ってもらった。
その日の午後のことだった。
私の田んぼはぐちゃぐちゃになっていた。
稲の葉っぱは細く縮こまっていた。
そして、端に植わっている稲は、大きな何かが通ったように薙ぎ倒されて道ができ、踏み潰されていた。胸から飛び出そうとバクバクする心臓を必死で押さえた。
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