【小説】マザージャーニー / 変われ、夏 1
↑はじめからはこちらより
なんで、こんなことになってしまったんだろう。
私は田んぼの前で、立ちつくしていた。
梅雨が明けたとたん、空気がガムみたいにべたべたくっついてくるようになった。私の背中をけたたましく打つ、セミの声。長靴の底から、地面に溶けそうな暑さ。自分の皮をべろりと剥いで、ごしごし洗う想像をいくつもした。
早朝に草取りをするようになってから、夜にお母さんの農業日記を読み、その文字のゆらぎとともに、眠りにつくようになった。
お母さんの丸みがかった文字は、音のない子守唄だった。
―お母さんも、暑い中、がんばってたんだね。私も気をつけるね。
そう書いて、私は翌日、お父さんに塩あめを買ってもらった。
その日の午後のことだった。
私の田んぼはぐちゃぐちゃになっていた。
稲の葉っぱは細く縮こまっていた。
そして、端に植わっている稲は、大きな何かが通ったように薙ぎ倒されて道ができ、踏み潰されていた。胸から飛び出そうとバクバクする心臓を必死で押さえた。
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