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ギャップを大きくしてくには、構成を色で考えると良さそうだ/「ハヤブサ消防団」から学ぶ【感動探求】
「ちょっとちょっと!!めっちゃおもろいの見つけた!」
私は興奮気味に夫に話しかけた。
ちょうどその時読んでいた小説「ハヤブサ消防団」(池井戸潤著)がめちゃめちゃ面白かったのだ。2023年の暮れのことだった。
普段本を読まない夫に、この感動を伝えてしんぜようと勇む勢いだった。
ところが夫は「え、いまさら?」と小馬鹿にするような笑みを浮かべた。(これは完全に私の主観)
「かなちゃん、それ、ついこの前までドラマになってて超有名やったよ」。
なんぞ!!!???
普段テレビを観ない私。
まさに読みながら「これがドラマになったら面白そうやなぁ。そんな原石小説を見つけた私ってば…ふふふ」くらいに思い、この登場人物はどの俳優を当てるべきか、まで想像しながら楽しんでたくらいだ。
それなのに、すでに先手がいたとは…!!(ぐはっ)
正直「池井戸先生、こういうものも描けるんですねぇぇ…!涙」と感動すら覚えていた。「ハヤブサ消防団」はその名の通り、地方の消防団をモチーフに扱っているからこそ、夫の所属する地元消防団でも話題になっていたそうだ。
そして小説では、消防団や田舎暮らしにまつわるリアル(池井戸先生は消防団に所属してたんですかと思うくらい、当事者にとって納得感あるリアルな描写)が素晴らしく、さすが作家としての取材力の高さや表現力に震えるばかりだった。
これがプロの仕事か…。
消防団、そして地方の田舎、集落を舞台に、ここまで面白く調理できるなんて。
私自身、自然や農にまつわるあれこれを書いていたけれど、我ながら、なんだか野暮ったいというか、そもそも興味ない人も読みたくなるように書くのは難しいなぁと思っていた。
だからこそ、今回の小説はとても勉強になった。
なので小説の感想じゃなくて申し訳ないんだけど、一見野暮ったいモチーフ&舞台なのに「面白く読めた」ポイントを私なりに分析してみた。
①それぞれの節ごとの書き出しが的確最高
これはほんと、実際に本を手に取ってみてください。
②みんなの溜まり場「居酒屋さんかく」の安定感にホッとする
うおお、小説の中に、居場所がある。
これ、面白い発見でした。
どういうことかと言うと、結構ハードモードな出来事が続いたときに、読者にとってもすごくホッとする場所がある、ということなんです。
部室とか、放課後の誰かの家とか、なんとなく顔見知りが集まる行きつけの居酒屋とか、なにかと人が寄り集まり、だべる時間、空間。
ホーム感。
その「溜まり場」である居酒屋さんかくが、小説の中でとても心地よい存在感を発揮している。
私も本編を読んでいて、そこそこ事件が続くと「あぁそろそろ『居酒屋さんかく』に行きたいなぁ」という気持ちになる。その感覚は今までにないもので、我ながら可笑しくなった。
また、居酒屋さんかくで展開される消防団の面々や、地域の人たちの会話が、既視感あるような心地よいやり取りで、クラスの男子たち(実際はそこに出てくるのはおじさんたちだけど)を遠目で眺めているようで、微笑ましい。
③ちょっとした恋要素あり、笑いあり、サスペンス要素あり、でも現代社会を投影する部分もあり、さすがのエンタメ小説
すばらしきエンタメである。
素朴な素材には、それが活きる味付けが必要だ。
例えば消防団というモチーフがピザ生地だったら、その上に「多種多様な具材を乗せれるだけ乗せたった!!うん、美味しい!!」というのが「ハヤブサ消防団」の印象だった。池井戸先生ってば、本当になんて調理師だ…。
ちゃんとヒロインも登場するし、ちょっと恋が生まれそうな雰囲気もあった。
来賓席に「真一文字」にホースの水を薙いじゃった消防大会の、想像したら笑えるような場面も、ちょっと幽霊現象?と思えるようなゾクっと体験も、
犯人を突き詰める鬼気迫るドキドキも、現代社会の問題を投影する、地方集落の課題や、宗教問題など。
ぜーんぶちゃんと、乗せました!
どん!
こんだけ盛り盛りしたのに、じゃんじゃん展開でさばいてくスピード感は、我らのページをめくる手を止まらせてはくれないのだ。
というのも、どう調理してるかと言うと
④予定調和がない。どんどん予想を裏切ってくれる気持ちよさ。犯人は誰だ的なのはやはり面白い
そう、ちゃんと、堂々と私たちを裏切り続けてくれるのだ。
「あの人怪しい」をしっかり醸しながらも
「そう来たか〜」のボールをテンポよく投げてくる。
どんどん投げてくる。
筆者が笑って投げてるのが、目に浮かぶくらい。
そのリズム感はすごく勉強になるものだった。(何目線)
そしてこれ、どうやって片付けるんやろう、と思ったところでラストですよ。
⑤ちゃんとラストシーンは泣ける。泣かせてくれて、ありがとう!!!
そう。
池井戸先生は、なんとも清々しく吹く風を、ラストにご用意してくださっておった!!もう、ありがとうですよ!!!ありがとう!!!書いてくれてありがとう!!
ちゃんと泣かせてくれるんです。
もう本当にすごいしか言えない。
プロの小説家って、ほんとにすごいなぁ、と圧倒されました。
結論、「地方消防団」をこのように調理してしまう池井戸潤先生、すごすぎです…
いわゆる「エンタメ」というものを、たっぷり堪能した読書体験でした。
例えば某テーマパークは8,000円そこそこで1日楽しめるけど、読書体験は数百円で、もう一つの世界をこんなにじっくり何時間かけて楽しむことができるって、改めて「そういう体験を筆一本で届けられるってすごいなぁ」と思った次第です。
さて、じゃあ
自分たちが「心うごく」物語でもプレゼンでもストーリーでも、届けたいと思ったとき、今回の小説の素敵さをどう転用できるのか?
1、遠慮なく、どんどん事件(ハプニング)を起こして、物語を動かす
だらだらさせない、テンポの良さ。
これはマストだ。
最近のショート動画よろしく飽きさせない工夫ですよね。
これはいいとして、個人的な大きな気づきは次。
2、最後に綺麗な風を吹かせるために、いかにギャップを作るかは色で考えたら良さそう
怒涛の盛り上がり部分とラストの、空気のギャップが激しいほど、いい。
例えば、最初から一貫して「嫌なやつ〜〜」と感じていた人が、最後の最後でいい風を吹かしてくる。
激しい事件が起きた後に、祭りの後の静けさのごとく、ラストへゆっくり収まっていく。
で、ここまで書いておいてふと、物語の構成を考えるときは、その時々の場面や節や章を、色で表すといいんじゃないかと個人的に思った。
というのも、コーヒーのフレーバーホイールが頭に浮かんだからだ。
https://coffee-fam.com/coffee-flavor-expression/
最近夫がコーヒーにハマっていて、毎日豆から挽いたコーヒーを飲んでいる。その中で、コーヒーとは言葉の世界、ということに気づいた。
コーヒーは「コーヒーチェリー」と言われるように、果実だ。
そしてワインのように、ボディがどうだとか、後味がどうだとか、その味を表現する言語で溢れている。
例えば、ブルーベリーのような、カシスのような、白桃のような、ダークチョコレートのような、紅茶のような、華やかな、フルーティーな、、、などなど。
コーヒーの世界選手権も、その人なりに淹れたコーヒーと、それを表現する言葉が合致しているかを見る、らしい。(夫談)
で、いろんな豆のコーヒーを飲みながら、味があーだこーだと夫と意見を交わすんだけど、なかなか表現は難しい。
ラズベリー感とブルーベリー感ってどう違うねん!みたいな。
だから、色でその味を表現してみることにした。
「赤っぽい味」「茶色っぽい味」「紫っぽい味」。
そして案外その感覚は、フレーバーホイールの色に当てはめると、案外当たっている。感じる色に紐づく言葉を、身につけていけばいいのだと気づいた。
そんな感じで、ここの場面、シーン、章で表現したい色を決めておいて、それを念頭に中身を書いていくのも面白そうだな、と感じた。
もちろんその章や節の中で、届けたい雰囲気の色と同じモチーフを入れてもいいのかも。これは「悲しいシーンでは、いつも雨が降ってる」とかと同じ感覚かも。
そう思うと、「ハヤブサ消防団」の各節も、スルスルとその節に合った色が思い浮かぶし、天気も呼応している。
そして場面の落差という意味では、色のコントラストがくっきりあるものに設定すればいいのでは。
うん、今後はそれで書いてみよう!と思った次第です。
さて、このエッセイは何色かしらね?
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