3月14日
休職4日目。昼も夜も眠っていても眠い。
歯医者の予約を忘れていて電話が鳴る。ゴミ捨てついでになんとか外に出る。陽射しが眩しい。重い腰を上げて歩いていると、目の前にいるお婆さんが話しかけてきた。
「見て、あの椿の花。同じ木に赤が濃かったり薄かったり、とても綺麗なの」
白髪のお婆さんはたぶん8〜90代だろう。
それでも今自分が見た感動を誰かと共有したくてわたしに話しかけている。
今の時期、伊豆大島の椿が見たいと毎年思いながら行けてないなと思い出す。
誰かと会話をすることは尊い。たとえそれが相手に合わせることでも、相槌を打ったり、挨拶だけでも自分という人間の形を導いてくれる。
歯医者に行っただけでも訳もなく泣きそうになっている。情け無い。長男が臨月でお腹にいた頃、母がしきりに言っていた。自分の結婚記念日の日に生まれないかしら。そうしたら、孫の誕生日で忘れたい結婚記念日が上書きされるのにと。
今日はわたしも元結婚記念日。
朝からかしこまって婚姻届を出しに行った記憶も、14年前。別れた今もその日のことはよく覚えてしまっている。
母の気持ちがよく分かる。上書きされればいいと思う。夜中、こたつで突っ伏して寝ていると、好きな人からLINEでバレンタインのお返しが届いていた。他愛もないことだけれど嬉しいと思う。結婚記念日を祝ったことも、ホワイトデーに誰かからお返しをもらったこともなかったから。
3月14日。これから先も何も変わらないけれど、少しずつでもいい思い出に上書きされていけばいいな。
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