この一生だけでは辿り着けないとしても
中島みゆきの命のリレーという曲。
ここでのコメントで教えてもらった。
人の人生は一回だけ。一回を生きる、それが一生という。何回もやり直しが利くわけじゃないから、皆、失敗することのないように、やり残すことのないように、そして時として投げやりにひとつの生という線路の上を走っていく。
でも、人生は思ったより短いし、同時にふたつのことは選べないし、何かを達成するには儚い。
天の川が見える。
浜辺で大の字になって横になり、夜空を見上げる。時々、流れ星が眩しく転がっていく。星に願いを、宇宙は遠すぎてこんなに離れた異星人の願いなんて聞かないと思う。
船が波の揺れに合わせて揺れている。
真っ白な砂浜。
色とりどりの熱帯魚が珊瑚を囲う。
深い深い海の向こう側。
人が立ち入らない世界があることが人の救いともなる。人はルールを作りたがる。決まりごとを決めたがる。19歳だったか、20歳だったか、ドイツを三週間旅した。簡単な英語もろくに喋れない、それでも知りたい世界があった。
「ママは初めて海外に行ったとき、日本では自分は弱いダメな人間だと思ってたことが、ほんとは強いからうまくいかないってことに気付いたんだよ」
人生で大事なことは人それぞれ違う。
夕暮れの海で、海水浴を楽しむ外国人カップルがくちづけを交わす。長男はそれを見ないように顔を背ける。
「ここは日本だよ」
いつか誰かが言った言葉が通り過ぎる。
この地上には人間が作ったもので溢れてる。作って作って作ってそこらじゅうで埋め尽くしてきた。目に見えるものから目に見えないものまで。宗派によってお焼香は何回だとか、罪と罰まで決めてきた。
否定するつもりはない、だってルールはあればあるほど、安心するもの。
ただ、そういうものが届かない世界があるということを知ってほしい。それは人の心も同じ。
誰にも文句を言う権利もないんだし、強制されるものでもない。
わたしはわたしの人生で為すべきことを為す。
久しぶりにローライで撮る。
首から下げてたら、買った当時に注文したストラップが壊れる。ローライの標準装備のストラップは革で使いにくいので、カニ爪の特殊な金具に肌あたりのよい幅広の紐がついたものに替えた。もうローライを買ってから10年が過ぎた。購入当時、60歳か70歳と言われたカメラは今何歳になったのだろうか。
「年代物ですね」
空港の手荷物検査で係員が言う。
親は子どもにルールを教える。
わたしは長男にルールの届かない世界も教える。そして繊細な彼の心が大人になっても壊れることのないよう幅広い世界を見せる。
それがわたしが出来る命のバトンで。
残りの人生、この一生だけでは辿り着けないかもしれないけど、人に渡せるだけのバトンを渡して命のリレーの一部になろう。
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