見出し画像

音楽の時間ですよ。~ようこそ、華麗なる音楽の沼へ~ 3時間目 死の島

今西:こんにちは。オーボエ奏者で講師の今西です。

くり:イラスト担当のくりです。

今西:こちらのコーナーでは皆様が聴いてみたいな~、でもとっつきにくいな~、と感じているクラシック音楽を身近に感じていただけるよう、クラシックの曲を一曲ずつ、有名無名問わず、難しい専門用語をできるだけ使わず解説していきます。今回はラフマニノフ作曲、交響詩「死の島」です。

くり:何だか今回はタイトルからして陰気ですが、読者がついてきますかね…?

今西:たまには有名じゃないものや陰気なものも入れていかないと変化がないでしょ?今回は趣向を変えて、この曲ができるきっかけとなった絵とその時代について併せて語っていこうと思います。

くり:絵?

今西:そうです。まず曲について。この曲は1909年、ロシアの作曲家ラフマニノフが作曲しました。この作曲家の特徴としては、近代の作曲家であるにも関わらず、この時代より少し前、ロマン派の作風を守っている点があげられます。

くり:確かに誰もが感動する曲が多いですね。

今西:「パガニーニの主題による狂詩曲」は誰もがどこかで聴いたことがあると思います。聴きやすく、誰が聴いてもかっこいいと感じる作風ですよね。他の同時代の作曲家たちは無調(調性がないこと)や12音音階(12の全ての音を平等に扱う作曲の仕方)などが多くなっていたので、最後まで調性を手放さなかったラフマニノフは時代遅れとも言われていましたが、結果として多くの人に愛される作風を保てました。そんなラフマニノフの曲「死の島」がこちらです。

くり:陰気だな(笑)。でも思ったより聴きやすいかも。

今西:映画のワンシーンで使われそうな感じもありますよね。交響詩は文字通りオーケストラで描いた詩と考えて差し支えないと思います。形式にとらわれず、作曲家が音楽以外のものや事象を音楽で描いているものです。この曲はベックリンという人が描いた「死の島」という絵に触発されて作曲されています。

note 死の島 挿絵

くり:ベックリン?

今西:ベックリンはスイスの画家で、この曲が作曲される少し前、1901年に亡くなっています。この画家の描いた最も流行った絵が「死の島」なのです。1880年代に複数回同じテーマで絵を描いており、多くの家庭でこの絵の複製画を飾っていたらしいです。ラフマニノフはこの絵のモノクロの銅版画を見て作曲しているので、更に暗く沈んだ雰囲気になっているのかもしれません。

くり:暗い絵だけど、見ていて静かで落ち着く気もする…。でもそこまで流行る理由って何だったのでしょうか?

今西:この絵が描かれたのが19世紀末。ヨーロッパは産業革命によって便利になった反面、失業者も多く出て貧富の差が開いたことで人々が不安を感じていました。また、世界大戦がはじまる前の不穏な空気もあり、このように謎めいた、静謐な絵が好まれたのではないかと考えられています。因みに絵の中央にある糸杉は死の象徴とされています。つまり島全体がお墓なのです。

くり:作曲者はこの絵が流行った後曲を作っていますが、何か時代の変化に関係しているのでしょうか?

今西:作曲された時はまさに世界大戦の直前、そして祖国であるロシアでは1905年の「血の日曜日事件」を経てロシア革命の真っ只中です。この曲が生まれた時代と曲想、そして題材である絵との出会いは必然であると思います。ラフマニノフ自身はこの後アメリカに渡り祖国に帰ることはなかったそうです。この曲に限らず、ロシア革命の頃のロシアの音楽、美術、文学は独特の哲学が盛り込まれているのでぜひとも色々調べてみてください。

くり:暗い時代には元気を出すために明るいものが流行りそうな感じもしますが、そうでもないのでしょうか?

今西:人間は自分の気持ちとあまりにも違うものより、より近いものに入り込みたくなるのかもしれません。絵は当然静止しており変化しませんが、この曲はあたかも自分が絵の中の船に乗り、島へ向かっているような感覚を覚えます。序盤は静まり返った暗い海をゆっくりと船が進み、進むにつれて大きな波が立ち船が揺れたりする。乗っている私たち聴き手に恐れを感じさせる場面もあります。曲の終盤に向かうにつれて島に接近し、最後は穏やかに眠りにつく。現代という、人類史上かつてないほど複雑化し、ある種ディストピア小説の世界に生きているような私たちにとって、案外フィットする曲なのではないかと思ったので取り上げてみました。

くり:なるほど、そういう意図があったんですね。

今西:そういうことです。きりが良いので今回はここまでです。また次回お会いしましょう!


llust くり
Twitter @kuriharaku
Instagram @kuriharakuru
(記事内のイラストの無断使用、転載はお控え下さい。)

#音楽 #クラシック #クラシック音楽 #音楽紹介   #music #classic #ラフマニノフ #交響詩 #死の島 #ベックリン #美術 #象徴主義 #Rachmaninov  


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?