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宮本浩次とエレファントカシマシと ー ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2019でエレファントカシマシの今を目撃したー

※2019年12月6日ロッキングオン「音楽文」に掲載していただいたものです。「音楽文」終了に伴い、こちらへアップいたしました。



8月10日ROCK IN JAPAN PARKSTAGEに宮本浩次スペシャルバンドとして出演。
8月11日オハラブレイクに宮本浩次として弾き語りで出演。
8月12日ROCK IN JAPAN GRASSSTAGEにエレファントカシマシとして出演。
まさに怒涛の3日間だ。ソロのスペシャルバンドと、ひとりきりでの弾き語りと、エレファントカシマシと。ひとつだって同じものはない。
実は7月に開催されたエレファントカシマシ毎年恒例日比谷の野音での記念すべき30年目のコンサートは落選。目撃することは叶わなかった。だからこそこの3日間は外せなかった。

8月12日。ひたちなかはうだるような暑さだったが、その暑さがむしろ心地よく、さあエレカシだ!という気分を盛り上げてさえくれた。もうすぐエレカシに逢える。そう思うと緊張すらしてくる始末。
もう大好きなのだ。
定刻通りエレファントカシマシが登場。宮本さんはエレファントカシマシの顔になっていた。一昨日横山健さん率いるスペシャルバンドで登場した時とも、昨夜オハラブレイクにソロで登場とした時とも異なる、エレカシの総合司会宮本浩次の顔だった。黒のジャケットに黒スキニー、白シャツできめている。宮本さんの後ろには、静かに3人がスタンバイする。いつもの通りだ。

いよいよ始まったエレファントカシマシ今年唯一の夏フェスは『ズレてる方がいい』でスタート。
 ああ 仮初の夢でもないよりはましさ
宮本さんの歌声がグラスステージに響き渡る。
これだ。これなのだ。重たくて、厚みがあって、よく分からないけれどとんでもなく強い。地響きのような音が身体にずっしりと響き沁みわたる。宮本さんの歌声と、石くんのギターと、せいちゃんのベースと、トミのドラム。全てが混じり合って生まれるこの重さこそがわたしにとってのエレファントカシマシだ。デビューから30年以上ただひたすらに歩みを止めなかった4人が紡ぐ音には、有無を言わせずに聴かせにくる力が確かにある。
これがエレカシ。巨大なグラスステージを見上げながら改めて思った。

宮本さんがエレキを掻き鳴らしてスタートした『悲しみの果て』。
ソロのスペシャルバンドで、弾き語りで、最近はそういう形で聴いていたこの曲で、わたしは気が付いたら涙を浮かべていた。この4人が紡ぐ『悲しみの果て』は、わたしにとってやっぱり最高だった。これはもう絶対だ。エレカシ以外の何者でもなく、エレカシでしか有り得ない。これが聴きたかった。だから涙が出た。本当に素晴らしかった。
  悲しみの果ては
  素晴らしい日々を
  送っていこうぜ
最後の一節を、音源とは異なるメロディーで歌いあげた宮本さん。最近よく聴くアレンジだ。少し切なげで、だけれど希望に満ち溢れたようなそんな余韻が残る終わり方だ。

オハラブレイク弾き語りライヴでは壮大にギター迷子となった『翳りゆく部屋』。
昨夜は「ギターが下手すぎる」と言って、曲が終わってから一節だけリベンジしたのだった。そのリベンジではギターに集中し過ぎて歌が留守になったりもした。ただひたすらギターに食らいつき、咄嗟に観客へ投げかけた言葉を含めて、宮本さんは生々しかった。
そんな昨夜の出来事はまるで夢だったかのように、グラスステージで圧巻の歌声を響かせる宮本さん、それを支えるメンバーの安定感のある演奏に、カバー曲だというのに圧倒的なエレカシを感じたのだった。
情緒的に歌いながら、やや難儀しつつも何故かブーツを無理やり脱ぎ捨てる。歌っている内容と行動がまるで伴っていない。そしてステージ終了まで靴下姿で歌い切った。
「まさか靴を脱ぐとは思っていなかったのだけれど、靴下に穴が開いていたという。どうですか。53歳の男が穴の開いた靴下を履いている」
と真顔で突然の告白。自分から脱いだのに、と思いながら足元へ目をやると確かに靴下の穴から親指がひょっこり顔を出していた。こういうことも明け透けに言う宮本さんは最高にロックだ。

はじめこそギターを弾いていたけれど、早々に放棄しハンドマイクで歌う。今日はそういう場面が多かった。ギターぶら下げて歌うよりも、ギター自体をステージに下ろしてしまう。宮本さんはマイクスタンドをなぎ倒してステージを駆け巡る。スタッフが苦笑しながらマイクスタンドを元の位置に戻す。曲終盤、マイクスタンドへ舞い戻り、再びギターをぶら下げて掻き鳴らす、といういつもの一連の流れ。このステージだけで一体何回あっただろう。一昨日、横山健さんに「化け物だ」と言い放たれたが、今日は更に更に駆けずり回っていた。そんな宮本さんを冷静に目で追って、彼のタイミングを探り、あるいは合図を悟り、黙々と演奏を続けるメンバーからは30年以上の歴史を改めて感じた。

ステージにはエレキがセットされている。
宮本さんが袖のスタッフに「今宵。今宵やるから」と声をかけて、スタッフが慌ててアコギを用意する一幕を経て『今宵の月のように』へ。
最初は宮本さんが呟くように弾き語る。
  くだらねえとつぶやいて
  醒めたつらして歩く
  いつの日か輝くだろう
  あふれる熱い涙
サポートメンバーであるミッキーのギターを制しながら、歌った。
本編前の弾き語り。まるで自らに言い聞かせているような、かと言ってわたしたちに語りかけているかのような、静かであたたかい歌声。
『今宵の月のように』は急遽だったのだろうか。もう20年以上、何度も何度も4人で紡いできたエレカシの代表曲。ここぞという時に歌うエレカシの代名詞。この安心感と言ったら。きっと4人は10年後も当たり前のようにこの曲を聴かせてくれるはずだ。そう信じさせてくれる歌と演奏だった。

今宵が終わり、袖のスタッフに腕時計のジェスチャーをして確認。OKをもらい、宮本さんがマイクに向かう。
「大丈夫そうなので最後の曲。アンコール。俺たちのファーストアルバムの一曲目。」
そう言って宮本さんがいつものように石くんに向かって指をさす。石くんが威勢よくギターを掻き鳴らす。
『ファイティングマン』
一昨日スペシャルバンドの締めもこの曲だった。今日は何度だって聴いているエレカシの『ファイティングマン』だ。宮本さんは股覗き歌唱も披露するという絶好調ぶり。曲の締めはいつものように宮本さんのジャンプと共に潔く終えた。

20代の時の曲も、30代の時の曲も、40代の時の曲も、全て1時間に満たないステージで、巨大なグラスステージで、鮮やかに当たり前のようにやり切った50代のロックバンド。これは、実はとんでもなく凄いことだ。
宮本さんはせいちゃんの帽子を奪って被ったし、一瞬ステージから行方不明になったと思ったら実はトミの後ろへ回り込んでジャンプしていたし、石くんの前髪をつかんだ。メンバー紹介の時は1年6組同級生もねじ込んだ。全て通常運転だ。

終わりはどうしてもストーンズ風挨拶をしたい宮本さん。
「早くしろ、押しているんだ」
と言われて苦笑いのせいちゃん。サポートメンバー含め6人みんなで横一列に並び、繋いだ手を挙げて深く長いお辞儀をした後に、せいちゃんとトミの間に入って手を繋いで挙げる。トミと石くんの間に入って手を繋いで挙げる。石くんとミッキーの間に入って手を繋いで挙げる。時間がないって言ったくせにやる。満面の笑みで。
そして最後盛大に「お尻出してブー」を披露。
「今夜夢に見るよ」と捨て台詞を放ってステージを後にした。
エレカシらしくエレカシでしかなく、宮本さんはいつも通りエレカシの大将だった。持ち前のパワフルさでぐいぐいとメンバーを引きずり回し、エレカシの舵をとる大将。そしてそれを成立させているのは、他でもないこの3人なのかもしれない。

一昨日、ソロのスペシャルバンドで出演した際、宮本さんが話してくれたこと。
「みんな自分のバンドを持っていて、その大切な時間を持っている中、集まった。大人の青春みたいなものだ。それぞれのバンドメンバーにも感謝している」
その日の宮本さんは、軽やかで眩しいくらいだった。演奏はすっかりメンバーに任せて、全曲ハンドマイクで歌うことに集中していた。はっきりとした役割分担。共に作り上げた新曲『Do you remember?』の締めだって、メンバーに委ねた。特に印象的だったのが、エレカシでは自らのカウント、タイミングで始める『悲しみの果て』や『今宵の月のように』を、横山健さんのエレキに合わせてスタートさせていたこと。
エレカシが大切にしている曲を演奏するということ。その演奏で歌うのは宮本さん本人であるということ。横山健さん、Jun Grayさん、Jah-Rahさんは真っ向勝負の演奏をぶつけてきた。圧巻だった。その姿にはエレカシへのリスペクトがはっきりと映っていたし、彼らにしかできない演奏で挑む姿は清々しかった。
まさに目の前で大人の青春を謳歌する4人を目撃したのだった。

昨夜のオハラブレイクだってそうだ。時に揺らぎ、時に観客を気遣い、時に必死にギターに食らいつく。独特の緊張感が漂う中、心配だったり、嬉しかったり、幸せだったりと兎角感情が忙しいライヴだった。それを経てラストの『風に吹かれて』では、宮本さんとわたしたちは確かにひとつのステージを共に作り上げていた。宮本さんもギターなんて弾くのを止めて、観客と一緒に手を振った。手を振りながらアカペラで歌う宮本さんの穏やかな笑顔と日が暮れた猪苗代湖。
曲の仕切り直しは、わたしにとって実はあまりたいしたことではない。
そして、宮本さんが観客に咄嗟に放ったあのひとこと。宮本さん曰く「悪態をついた」あのひとこと。
後に謝辞を述べたことを含め、わたしは嫌いではない。
現在進行形の宮本浩次と対峙している、という事実を痛い程感じ、ひとりきりで全力で戦う姿を目の前で目撃したからだ。
エレファントカシマシデビュー30周年という祝福に包まれていたあの時間から、確かに宮本さんは前に進んでいる。周りから、更には自ら背負ったものたちから解き放たれ、自由を謳歌し、だけれど戸惑いや歯がゆさを内包しているようにもみえる初めてのソロ活動。まさに大人の青春真っただ中といった風情だ。

面白かったのが一昨日スペシャルバンドの時よりも、今日の方が宮本さんの暴れ方が凄かったということ。軽やかな雰囲気は一昨日の方があったのに。
宮本さんは真面目で几帳面で神経質でストイックで、だからこそエレカシはとびきり重い。そしてそれはわたしにとってエレカシに惹かれる理由のひとつだ。
「良い曲を作って、またオハラブレイクに来ることができるように頑張ります。」
晴れやかな笑顔でそう言ってのけたデビュー30年を経たロックバンドのボーカリストであり、ソロとしては新人歌手でもある宮本浩次。今、全力で大人の青春を「散歩中」である彼は、果たしてエレファントカシマシにどんな土産を持ち帰るのだろうか。
結果、石くん、せいちゃん、トミとの音がどんな方向へ向かうのだろうか。どんな化学反応が起こるのだろうか。
宮本浩次とエレファントカシマシと。
考えただけでわくわくした。


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