かもめが翔んだ日
今日、あの人に最後に会いにゆく。
最後まで好きだった。耳の下のにおいも、すこし鼻にかかったような声も、眉毛の角度も。
彼は港を愛していた。私は、琥珀色に煌めく海を見ながら泣きそうな瞳をしているのを見るのが好きだった。
でも、いつしか「あ、」と思うことが増えた。そのたびに切なくなった。
私から「お別れしましょう」と告げた。
「わかった」
「…なんで理由もきかないの?」
「だって、もう決めたんだろ。理由をきいてもしょうがないよ。」
「…さよなら」
きっと、この人はひとりで生きられるのだろう。
私は踵を返して去った。そのとき、一羽のかもめが翔んでいた。