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【40代】何を見ても泣ける母は、いつも娘に怒られる

中1の三女が、卓球大会の代表選手に選ばれた。

それも、地域の中学生が競い合う、年に一度の大きな体育大会である。部員の中から選抜されるのだが、なんとうちの三女が選手に選ばれた。1年生で4名しか選ばれないらしい。おぉ、すごい!!

「試合、絶対見に行くよ!!何時から?」

「大丈夫。ママは見に来なくて。」

…え?え、なんて???

はじめての試合なのに?
初ユニフォーム姿なのに?
普通、親に見に来てほしいもんじゃないの??

驚きすぎて、ラッスンゴレライの合いの手みたいなってしもたぞ。

「だってママ、絶対泣くから恥ずかしいもん。」

ショックを受ける母に、三女は冷たく言い放つ。



私は涙もろい。
嬉しくても悲しくても、すぐ泣く。

生徒が英検に受かったと聞けば泣き、教室の個人面談でお母さんが感極まって泣くと、こちらも一緒に泣いてしまう。

元々涙もろかったが、40代を迎えそれが加速した。

はじめは、トトロだった。

娘たちが小さい時に何度も何度も観た
ジブリの名作「となりのトトロ」。

金曜ロードショーで久しぶりに見ていたら、メイちゃんがトウモコロシを持って走っているシーンで号泣してしまった。理由はわからない。なんだか、胸が詰まって泣けてしまった。

そこで、自覚した。
もしかして私、前より涙もろくなってるのでは?と。

単純に歳を取ったのだと思う。

結婚し、子どもを産み、様々な人生経験を経て、いろんな人の気持ちが、それぞれの立場で理解出来るようになったからだと思う。

今なら気の強いサツキの気持ちもわかるし、純粋無垢なメイの気持ちもわかる。
なんなら一人で家を守るお父さんの気持ちも、病院で過ごすお母さんの気持ちもわかるし、おばあちゃんやネコバスの気持ちにまで共感してしまって、胸がいっぱいになる。

以前は私の琴線に全然触れてこなかったものまで、今やなんでも触れまくって涙が出る。

それに気が付いてからというもの、私は泣ける話を、前もって避けるようになった。

24時間TVは極力見ない。だって感動するって知ってるから。オリンピックも結構危うい。
「余命〇年」とタイトルにある映画やドラマは見ない。命の大切さは十分にわかってるから大丈夫。戦時中の話もダメ。戦争反対!!

それでも、私の涙スイッチは、
私の意思と関係なく突然押される。

先週は、noteを読んでいる時だった。
岸田奈美さんのダウン症の弟さんがグループホームに入るまでの「はなむけ日記」を読んでいて、すでに感極まっていたからなのかもしれない。

リビングで本を読んでいたら、中3の長女が、ジョイマンのステップで「Here we go… 」と静かに踊りながらリビングに入ってきた。

そのまま長女はキッチンの方に進み、クルッとこちらを向いたと思ったら、いつものように「ママ大好き~」と指ハートしてくれたので、「ママも大好き!」と返したら、長女は両手をYMCAのMのポーズにして、変な顔でふざけてきた。

それを見て私は大爆笑しながら、ふと思った。
「あぁ、こんな彼女との幸せな日常も、4年後、この子が高校卒業して家を出たら終わってしまうのか…」と。

あと4年。たった4年しかないのか。

「なんか、寂しい…」

とつぶやいた瞬間、自分の意思とは無関係に、涙がぶわ~~~っと溢れてきてしまったのだ。

ついさっきまで大爆笑していたのに、急に
「やばい、ごめん、ママ、泣けてきちゃったっ…」とパジャマの袖で涙を拭き始めた私を、主人は

「なに、急に泣いてんの!?」と
呆れて見ているし、当の娘は

「ママ、また泣いてる~!!笑」

と、わざわざ他の部屋に妹を呼びに行き、こぞって見に来ては、泣いてる私を見て大爆笑している。

涙もろいにも、程がある。

最近は体育祭で泣き、長女の陸上大会で泣き、つい先日は次女の初めての吹奏楽祭で泣いた。

以前にも書いたが、次女は生粋の不器用である。


そんな彼女が、不本意ながら選ばれたトロンボーンへの気持ちを払拭するように練習に励み、毎日休まずに部活に出てがんばる姿を見ていたので、初めての吹奏楽当日、重いトロンボーンを片手に次女が舞台上に出てきただけで、母は涙がボロボロ出た。まだトロンボーンを吹いてもないのに。

結局、最後まで次女がトロンボーンを吹いている姿は、涙でにじんで見れなかった。他の先輩たちと同じタイミングで、トロンボーンの管が行ったり来たりしてるのを見てるだけで、ポケットティッシュ2つを使いきった。

そんな涙もろい私なので、今回の卓球の試合、

「大丈夫。ママは見に来なくて。」

という三女の気持ちは、わからんでもない。
観覧席で意味がわからないタイミングで泣き始める母は、どう見ても恥ずかしい。

特に三女は、うちの三姉妹の中でも一番人の目を気にするタイプだ。

参観日も来なくていいと言われるし、体育祭の日も、教室で食べるお弁当に一言メッセージを添えただけで「恥ずかしいからもう二度としないで。」と怒られた。いやーん。

結局、三女は大会当日の試合時間を教えてくれなかった。

大会自体は朝から夕方までトーナメントで続く。試合会場は家から遠く、その日は繁忙期真っ盛り。仕事も長時間は調整がつかなかった。

私は会場で見る事は諦め、当日は送り迎えだけをすることにした。朝会場まで三女を送り届け、帰りは授業時間と重なるので、ママ友に送ってもらうようにお願いした。

当日の朝、
三女はもちろん、絶好調におなかが痛くなった。

そりゃそうだ。初めての試合。初めて着るユニフォーム。一緒に買いに行った新品のラケット。三女は緊張していた。

でも、行きたくないとは言わなかった。

選ばれなかった他のメンバーの気持ちもちゃんとわかっているのだろう。自分は行かなければいけない。でもやっぱりおなかは痛い。

「無理して急がなくてもいいよ。遅れそうなら自分で先生に連絡しなね。」

「わかった。」

自分で顧問に連絡して、集合時間に少し遅れて会場についた。

「途中でどうしても具合悪くなったら、迎えにくるから連絡して!」

車を降りる時、私は三女に伝えた。

「うん。いってきます。」

三女はいつも通り言葉少なげに会場へ向かっていった。顧問の先生が迎えてくれたのが見えたので、私は家に戻った。


帰ってきて、家で仕事をする。
仕事をしながらずっとソワソワしていた。


大丈夫かな?おなか痛くなってないかな?
試合もう終わったのかな?
お弁当たべれているかな?

お昼も過ぎた頃、

”ピコン!”

とLINEの通知音が鳴った。
開けてみると、送迎をお願いした卓球部のママ友からだった。

「三女ちゃん、今、名前呼び出されて、もうじき試合開始です!」

そこには写真が一枚添付してあった。

その写真を見た瞬間、私は仕事をしていた教室で一人、ポロポロ泣き出してしまった。

なんて不安そうで、頼りない背中。
でもしっかりとそこに立っている。

声を出して、泣いてしまった。

がんばってるんだな。
母の見えないところで、
あの子は一人で戦ってるんだな。

学校に行きたい、でも行きたくない。
部活は頑張りたい、でもおなかがいたい。

あの子は毎日戦っているのだ。

きっと今もおなかが痛いのだろう。
でも、もらったばかりのユニフォームを着て、新品のラケットを持って、仲間たちの応援を背負って、そこに立っている。

毎日、厳しい言葉ばっかりかけてごめんね。
ママ、優しくなくてごめん。

"見に来てほしくない"って言われたけど、やっぱり見に行けばよかった。嫌がられても、「がんばれー!」って応援したかった。
大丈夫、そばにいるよ!って伝えてたかった。
終わったら抱きしめてあげたかった。

私がそうなるのがわかってて、来てほしくないって言ったのは知ってる。けど、それでも行きたかったな。私も、色々偉そうなこと言いながら、なんて過保護で親バカなんだろうか。

ここ数ヶ月のいろんな思いが駆け巡って、三女の葛藤がその背中に表れてる気がして、私は一人、嗚咽しながら、鼻水垂らして、泣いた。





結局、試合には負けた。
はじめての大会は、一回戦敗退に終わった。

夕方、ママ友の車で三女が帰ってきた。

私はお礼を言い、リビングに戻って来た三女に、
「写真見たよ!よく頑張ったね!」と伝えた。

ハグしようとしたら「あ、大丈夫」と制された。
いやーん。

「やっぱり見に行きたかったな」と呟いたら、

「負ける試合はママに見に来てほしくないもん。
もうちょっと強くなったら見に来ていいよ。」と言われた。

あ、いいんだ。
良かった。




いつか、こんな事も忘れて、いろんな事が平気になる日がくるかもしれない。長年生きていると、人としてどんどん図太くなる。

でも、この涙もろさはどんどん悪化していく気がする。いろんな経験を積んだせいかな。それが周りの人の気持ちが理解気持ちが理解できる「優しさ」に変わればいいな。

ちなみに、この文章を書きながら、私はまた一人パソコンの前で泣いている。


涙もろい人につける薬は、ない。


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