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機械仕掛けの街3

 目の前の女性は、机の上に置かれたココアを見つめて動かない。
 俺の隣ではアルファがこれでもかと紙を食べ続けている。時折、紙片が飛び散って、俺のココアの中に様々な色をした紙屑が入っていく。さりげなく女性の方のコップ上に手をかざしておく。

 機械仕掛けのカフェは音楽もなく、紙が破れる音と機械音しか響かない。
 カチッカチッカチ……。
 心地よい音が、今では煩わしく思う。
 女性は言葉を発するでもなく、俺たちを見るでもなく、人形のように動かない。よく見ると顔は整っており、歳は18と言われても疑わないほど童顔で。ただ、服は見窄らしくヨレヨレで、所々破れてもいる。また、匂いもきつい。ゴミ箱で育ってきたのかと思うほど酸っぱい匂いがする。しかし、俺の周りの機械人は匂いを感じないため気にしない。そこだけ羨ましい。

 唯一、この街には人間が1人。俺だけだというのにも関わらず、この目の前の女性が発見された。体は機械でもなく、俺と同じ生身の人間で。ただ、当然ながら、俺の知っている人ではない。誰なのか。なぜここにいるのか。すごく聞きたい。
「名前は?」
「……」
 この調子だ。
 ココアを見つめる(と言っても俺が手をかざしているから俺の手を見ていることになるが)その目は、空虚で、闇を映している。
「なぜここにいる?」
「……」
 話にもならない。なぜ必死になって人間を見つけて、わざわざカフェに連れ込んで話を聞こうとしているのか。別に人間がいたとしてももう関係ない。たった1人いたところで、俺は関係ない。
「……人間様、嫌われてんじゃね?」
「なんでだよ」
「そりゃまあ……なんか嫌われそうだから?」
「紙没収」
「というのは冗談です!」
 これ以上は進展はないと判断し、店員を呼ぶ。
 カラカラ……と軽快な音が鳴り、店員が俺の隣に立つ。
「では、これを所望します」
「ん」
 俺は店員が差し出したレシートを読む。『ネジ、歯車』
「すまねえ、歯車はアルファの怪我を治すのに使った。ネジでいいか?」
「ええ。構いません」
 懐からネジを鷲掴みにして、店員が差し出してきたトレイに乗せる。ガチャガチャと音が鳴る。
「毎度ありです。今後ともよろしくお願いいたします」
 そう言って持ち場へ戻って行った。

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