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[工芸の五月]「vent de moe 2022 summer exhibition ”私たちの夏は軽やかに逃げ去った、美しいものの中に”」栞日

過ぎゆくものを思う、ということ


 日本古来の伝統工芸品、その代表格とも言える扇子。

 竹と紙、というシンプルなマテリアルからなる素朴な質感と、使用しないときはコンパクトに折りたためる利便性、そして数十年の使用にも耐えうる高度な耐用性が、持続可能性、という言葉が叫ばれて久しい近年の生活様式の中で脚光を浴びるなど、現代においてもその価値は未だ衰えていない。


 そんな扇子を中心としたプロダクトを松本市を拠点に手がけるのが、長野出身のデザイナー、小林萌さんの主催するブランド「vent de moe(ヴァン・ドゥ・モエ)」だ。


 今回お邪魔したのは、5月20日より栞日(松本市深志3-7-8)にて開催が始まった、vent de moeの今夏のニューアイテムがお披露目となる新作展示会。
 米国の女性詩人、エミリー・ディキンソンの作品「As Imperceptibly as Grief」からの一節がタイトルとして掲げられたこの展示会には、まさにディキンソンの作品世界がそのまま立ち現れたかのような、暖かくもどこか寂寞とした夏の姿を、扇子という媒体の中で多様に解釈した作品がずらりと並ぶ。


 ディキンソンが生涯を通して遺した1700編を越える詩の中には、夏をテーマとした作品も複数含まれる。その中で彼女は、夏というモチーフに「過ぎゆくもの」という解釈を与えた。彼女が夏の季節に託したのは、過ぎゆく時間、或いは人々への、また愛する人の喪失に対する繊細で、痛切な悲哀だった。

ディキンソンの作品が大胆に配置された「私たちの夏は過ぎ去った、美しいものの中に」
写真左から「はざま」「by your name」
波打つようなパターンの美しい「桃色の奥深く」


 しかし、そうした悲しみの先にディキンソンが描こうとしたのは、緩やかに変容する自身の心と共に感受性が薄れてしまっても、青春時代の幸福は時を経ても美しくあって欲しい、という過ぎゆくもの達への希望に満ちた祈りだった。

写真左から「after the rain」「violet diary」
積み重ねたタイルのようにソリッドな印象の「ゆるやかな叫び声」
展示されている作品は全て購入が可能となっている


 扇子という媒体の持つ美の耐久性は力強い。交互に折り重なる扇子のパターンが捕まえた夏の多面的な表情は、その美しさを不変のままに、私たちの傍らに残り続ける。そしてひとたび手に取れば、記憶の奥に眠る夏の姿が広がっていく。思い出の夏が見せる表情は人の数だけ存在するが、それはきっと、あなたにとって美しいものに映るはずだ。

店内絵画などの制作も手がけているとのこと
新しい試みとして、スカーフやハンカチなど小物類もラインナップに加わった
財布・小物類を手がける「I Eye's(アイ・アイズ)」とのコラボレーションも展開される


 展示期間は6/5(日)まで。会場となる栞日では、珈琲などのドリンクや軽食も楽しめる。夏迫るこの季節に、ゆったりとした時間を過ごしながら、来る夏へ思いを馳せてみてはいかがだろうか。(Y.S)


vent de moe 2022 summer exhibition ”私たちの夏は軽やかに逃げ去った、美しいものの中に”
会期:5/20(金)~6/5(日)
時間:7:00~20:00(水曜定休)
会場:栞日(松本市深志3-7-8)


↓ vent de moeについて詳しくはコチラから

https://www.instagram.com/vent.de.moe/


↓工芸の五月についてはコチラから


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