極薄スライス椎茸
メガネがうまくかからない。
先日ガラスに激突して怪我を負った鼻の上に分厚いガーゼが乗っていて、そこをテープでバシバシととめているからだ。
メガネ自体も激突の衝撃で真っ二つに割れたので、昔使っていたメガネを無理矢理かけてみると、眼鏡が浮いてしまい目と眼鏡の距離が遠くなるため、目の大きさが普段の2分の1ほどになる。
鏡で自分の顔を見た時、「滑稽」としか言い表せないような状態だ。
コンタクトを作るしかない。
朝一で眼科に行き、怪我が治るまでコンタクトを装着したいという旨を話した。
そして、コンタクトを作るまでの流れの説明を受け、視力や目の状態を診ていただいた。
そして、コンタクトを使用してもいいという許可が下りた。
「では、コンタクト着脱の練習をして行きますね。」
私は今までコンタクトレンズなど恐怖で絶対にできないと思っていた。
だが、まだ出来たばかりの傷のうえにメガネを乗せて、更に目が2分の1の大きさになるという、なんとも痛々しく滑稽な姿で道を歩くよりは、目に皿を入れる方がよっぽどマシだと思った。
また、レンズを手にしてみると、思ったより柔らかいではないか。
まるで、極薄スライス椎茸のようだった。
「レンズ」という言葉が似つかわしくないと思った。
左手人差し指で上瞼を抑えて、右手中指で下瞼を抑えながら中指に乗ったレンズを入れるとのことだった。
最初は指が黒目に接近してくると反射的に黒目がひょいとあらぬ方向に逃げてしまい、中々難しかった。
何度も試して、よし入ったと思っても右手人差し指を見ると、指の腹に沿ってレンズが付着していたり、レンズが半分目から出ていたりした。
十五分ほどチャレンジしただろうか。
なんとか右目に一枚の極薄スライス椎茸が入った。
ほどなくして、左目にも入れることができた。
長らく怖い怖いと思っていたことでも、いざその時になればなんとかできてしまうのだなと思う。
そして、看護師さんに
「できました!!!」
と報告して、度数合わせなどをしてもらった。
レンズはすぐに体の一部のように馴染んだ。
私も人とのコミュニティにこのくらいすっと馴染みたいものである。
支払いを済ませてレンズを受け取り、お手洗いで鏡を見た。
メガネをかけていない自分を見て、未完成品のように感じた。
これもこれで滑稽な気がしてしまった。