命の値段
今から十数年前、近所のお寺の境内の地蔵堂の前に老人の遺体が横たわっている、という事件が起きた。そのお寺では境内を駐車場にしていたのだ。
場所がお寺ということで、さまざまの憶測を産んだ。
警察官たちが毎日のように、数十人もやって来て、人海戦術で現場を捜査した。
(人海戦術でやられれば、たいていの犯罪者は捕まるな。と思ったし、警察のやることは徹底的な証拠集めである。現場に名探偵は要らない。ということだとも思った)
やがて、犯人は現れた。マスコミ報道を見て、自分がやったのではないかと思い自ら警察に出頭したのだ。
真相はこうだ。
事件当日の深夜に、犯人は自分の自動車にお得意様を乗せて帰路につくところだった。(犯人は会社経営者なのだ)
やがてある地点で、車道の真ん中に寝ていた老人を自動車に引っ掛けた。だが彼は、そのことに気が付かなかった。その車道は川沿いの道幅の狭い車道であって街灯も付いていなくて深夜は真っ暗な道だ。自動車は老人を引きづりながら走り、やがて老人は絶命した。
犯人は駐車場になっているお寺の境内にいったん入り地蔵堂付近で停車した。そこでお得意様を降ろした。そして車をUターンした。その時老人の遺体は自動車から外れた。
それでも犯人はまったく気づかずに自宅に戻った。
以上である。
犯人はどうなったか。罰金三十万円を支払い、それで済んだ。
たぶん老人はただのホームレスだったのだろう。深夜に酒を呑んで酔っぱらって、車道の真ん中で寝ていたということだろう。遺族らしき人も現れなかった。
それで罰金三十万円で済んだのだ。ひとひとり殺してたった三十万円なのだ。
車道で寝る人にはなりたくない。
将来に不安を感じる。
(実話です)
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