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#2 【話すの究極は「聞く」】 役作りと人間造り

俳優を生業にしています。と話すと結構聞かれるのが

『セリフ覚えるの大変そうですね』

という声。
確かに専門用語が多い医者の役や、弁護士の役、宇宙飛行士とかになったらそれは大変かな…とは思うけど、実際専門用語でない場合ならセリフが大変だ~~と思うことは少ない。

例えば接客業等で、相手が何をどんな風に要求してくるかわからない状況で対応する。そんなお仕事をしている方のほうが「予測できない」という意味では実に大変である。
言ってしまえばお芝居はある種の「決め打ち」だから、脚本の流れをつかんでおけばテンパってしまうことはない。

しかし私も始めたての頃は「セリフを覚える」ことが苦痛だった。
覚える前から、忘れてしまった時の恐怖が終始襲うからだ。
自分のセリフが終わると、相手のセリフ中には次の自分のセリフへの不安が募る。
一行一行安心してはまた恐怖するものだから、ずっと呼吸は浅いまま。身体は強張り、不自由そのものだった。これをナーバス以外の何と言えばいいだろう。

俳優が死ぬまで挑み続ける『役作り』への闘い。
第一弾はこちら。


■セリフを「言う」ことから「聞く」へ

本当に行き詰った時こそ逆説でいかなくては。
これはお稽古をしているときに指導された一言だった。

同じく俳優をしている友人にも何度か言われたことがあった。

『相手のセリフを覚えなくちゃ。
そしたら自分のセリフなんか自然と出てくるよ』

いやいや、それって文字数的には倍覚えることになるじゃないか…!
ただでさえ「覚える」ことに震えているのにそんな余裕は…ナイ!

そんな状態の私は、何か突破口を見つけるべくセリフを覚える訓練から「人の話を聞く」ほうへ転換していった。普段から人の話をよく聞くことができる人ほど、話し方がうまい。
相手の欲していること・聞いてほしいことの芯からズレた切り返しをしてしまうことがいかにイタイことであるかを存分に知るためだ。

つまり自分の言うことが初めから決まっている=自分のセリフを覚えただけの状態、を私生活からやっているとどうなるか、という実験に似た試みである。

するとまず、相手の語尾に食って何かを言うことが減っていった。結論を急がない。お芝居の時は、その語尾が来たら「次は自分の番だ!!」とフルスロットルになるもんだから、セリフがいちいち立ちすぎてしまって抑揚どころではなくなる。

人が話しているのを聞く…ということに注視していると、とにかく喋ってやろう!という肩の力は抜けていくので慌てた会話にはならない。これが一番最初に気が付いた点だった。
さらに相手の表情や息遣い、身振りや目線に気が付く。
話を聞くってこんなにいろんなことをしているんだ…!と勉強になったと同時に、自分が話しているときのヒントにもなった。

一言で「聞く」と言っても、その間ニコニコ相手の顔を見ていればいいわけでもない。話が右から左ではもっといけない。

・相手の言わんとしていることはどんなことなのか?
・それはどんな感情で?
・どんなリアクションを欲しているのか?
・会話の流れを勝手に予想し結末を決めず、でも2割くらいは想像しておく
・相槌はし過ぎないこと
・目を見ながら聞くのは「ここぞ」というとき

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