ありがとう、コロナウイルス。

~派遣生活の始まり。そして緊急事態宣言~

心機一転、派遣薬剤師としての生活が始まった。

派遣薬剤師は正社員と違い、人員不足の薬局にピンチヒッター的な存在(=即戦力)として有期雇用契約で勤務する。

そのため正社員時代と違い、処方せんの枚数を捌くことを求められ、患者さんとのコミュニケーションを築くことは求められていない。

ひとりひとり目の前にいる人とのコミュニケーションをなにより大切にしたい私にとって、派遣薬剤師はまさに、海外渡航の資金集めのための時間とお金の交換だった。

理不尽なことや嫌な思いをしたこともたくさんあったが、「7月からのカナダ留学のため…!」と、自分を押し殺して割り切っていた。


しかし、そのときは来た。

2020年、3月。コロナウイルスによる緊急事態宣言。

私の海外渡航計画は、儚くも一瞬にして消え去った。


~人生を変えた、Amazonファーマシーでの経験~

4月からの派遣先にAmazonファーマシーを紹介されていた。

海外渡航も消え去り、一瞬働くことから離れようかとも思ったが、派遣という立場でAmazonファーマシーに入れることはこれから先ないだろうと興味本位で引き受けることにした。

このAmazonファーマシーでの経験は、私が最終的に薬剤師を辞める大きなターニングポイントとなる。


2020年、4月。薬剤師5年目。

初めての外資企業での薬剤師業務に「この環境でどこまで成長できるだろう?」と、少しワクワクしていた。

しかしそこで目の当たりにしたのは、想像していた光景とは真反対の光景。

日々の業務に忙殺され、数字や時間に追われている正社員たち。

束の間の昼休憩も、毎日コンビニ弁当を食べ、足早に業務へ戻る正社員たち。

そんな姿を見て

「仕事って、働くって、なんだろう…?」

「何のための人生…?何のためにこんなに身を削って働く…?」

「本当の幸せって…?大金を稼ぐことが幸せなの…?」

社会人になってからずっと抱いていた疑問が、さらに強く押し寄せる。

「海外渡航もなくなったし、今後どうしよう。そもそも私はいま何のために働いているんだろう?」

業務をこなしながら、自問自答する毎日。

ちょうどこのとき、世は緊急事態宣言で外出できない状況。

メディア報道に煽られた知識に乏しい一般の人たちは、なんの疑いもなく、効果も根拠もない薬を次々と注文してくる。

追い打ちをかけるように私の業務量も増えていく…

このままではいけない気がする。なんだかおかしくない?日本の将来、危ないんじゃない?

この感情は日に日に大きくなっていき、葛藤を抱えながら毎日を過ごしていたある日、心の奥底からかすかな声が聞こえた。

「もう、そんなに頑張らなくていいよ」

心と身体は悲鳴を上げていた。限界だった。

いま、自分のこれからの人生に真正面から向き合うタイミングなのかもしれない。

これから自分が本当にやりたいことは、きっと”薬剤師”という肩書きが邪魔をしてしまうかもしれない。

そう悟った私は、派遣契約満了の7月で5年弱続けてきた薬剤師から一旦離れることを決意した。


この決意を下す決め手をくれた”コロナウイルス”に、私は感謝をしている。


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