人生を変えた、立山 〜後編〜
~前編~を読んでいない方はこちらから。
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当初は夜明け前、さらにここから雄山山頂を目指し登山を再開する予定だった。
しかし前編を読んでいただいた方ならお分かりかもしれないが、体力もさることながら私のメンタルはどん底まで落ちていた。
(なんのために山頂まで登るんだ?早起きしてまで山に登る意味が分からない…!)
ふーみんさんもそんな私の様子を見て、「無理はしなくていいよ。今回は山頂はやめておこうか」と一言。
こうして2日目は、ふたたび雷鳥沢キャンプ場から室堂まで戻るルートへ変更となった。
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~夜の闇~
(寒い…)
夜中、何度も目が覚める。
9月と言えど、ここは標高3000m弱。
夜が深まるにつれてどんどん気温は下がっていく。おまけにド素人の私でも分かるくらい、酸素も薄かった。
初めて身を包む寝袋の窮屈さ、そして顔面も痛みを感じる寒さ。
またもや
(修行かよ…帰りたい…)
そんなことを思いながら、ウトウトと浅い眠りについたのであった。
~価値観を180度変えた、衝撃の景色~
朝。
テントから出ると、冷たい空気に包まれた澄んだ青い空。
360度、どこを見渡しても山!山!山!
(ほぇ〜!!!綺麗…)
昨日とはまったく違う表情を見せる山に、ただただ圧倒される。
そしてこのとき、山々を見渡して私が放った一言。
「山頂まで登りたい!!」
心の奥底から、無意識に出た言葉だった。
自分でも驚きである。
心の中のなにかに触れたのだろう。ほんの数時間前まで、「寒い、帰りたい、登る意味が分からない」とほざいていた私が一転、「登りたい!」という衝動に駆られたのだ。
山頂から見る景色を想像したら、登らずにはいられなくなった。もちろんどんな景色が待っているかは分からない。しかし、登った先になにかが待っていると確信した。
そんなことを思っていると、背中がジリジリと焼けるような感覚が。
(暑い…)
太陽がようやく顔を出した。
人生で初めて、太陽のありがたみを感じた瞬間だった。
暗く冷え込んだ一夜をここで明かしたからこそ、より一層太陽のありがたみを感じることができたんだと思う。
当たり前ではない大地の恵みに自然と感謝が溢れる。
今後の人生に希望が持てなかった私に、「人生はまだまだこれからだ!」と背中を押してくれているような力強い太陽の日射し。
”本当の幸せ”は、「自然とふれあうこと」で感じることができるのではないかと、強く感じた瞬間でもあった。
こうしてそれまでの私の価値観は180度ひっくり返されたのである。もちろん、良い意味で。
~最後まで裏切らない立山~
下山するため室堂を目指し、再び昨日歩いた道を歩く。
太陽の光を浴びたおかげか昨日より調子が良い。初めて使うアイゼンを両手に、一歩一歩前へ歩き進めた。
(いま、わたし、生きてる~!!!!次は絶対に山頂まで登る…!!)
心の底から自分が生きていることを実感したと同時に、再びリベンジに来ることを心に誓う。
途中何度も足が止まりかけた(止まった)が、歩かないことには進まない。いつしか登山にハマりかけている自分がいた。
そして、そんな私にとどめを刺した景色。
ミクリガ池。
「紅葉は見れなかったけど、山頂にも登れなかったけど、本当に立山に来て良かったです!」
心から、この景色を見ることができたことに感謝と達成感でいっぱいになった。
室堂に無事帰還したときのこのスッキリとした表情が、すべてを物語っている。
ーこうして、初めてづくしだった私の人生2回目の1泊2日・立山登山は幕を閉じたのであった。
最後に。
人生を彷徨っていた私に、山・自然の魅力、そして人生の歩み方を照らしてくださったふーみんさんには心から感謝しています。本当にありがとうございました。