見出し画像

いらなくなったでしょう

tさんから聞いた話
tさんは結婚しており、子供が三人いる。全員、男の子で家庭はとても賑やかな様子だった。
現在は三人とも成人しており、各々、家から出て暮らしをしている。
三男が小学四年生の時に起こった出来事。
同級生にh君という男の子がいた。h君とは今までクラスメイトになった事がなく、話しをした事がなかったのだが、h君の席が前になり、そこからちょくちょく、話すようになった。
h君とはとても気が合い、休み時間はほぼほぼh君と一緒に過ごして遊んでいた。
仲がよくなり、お互いの家に遊びに行くようになった。
h君の母親はいつもにこやかで穏やか優しく愛想のいい人だった。
遊びに行くといつもお菓子を出してくれて、たまにh君のお母さんの手作りお菓子が出てきた。
クッキー、ホットケーキ、ケーキ、どれも大変、美味しく、h君の家で遊ぶ、もう一つの楽しみだった。
h君の家ではポメラニアン飼っている。h君の家に入ると、いつも玄関まで来て、尻尾を振ってお出迎えしてくれた。
とても、愛嬌があり可愛いワンちゃん。
h君の母親にとてもなついており、母親もとても溺愛している様子だった。
そこから、母親同士での付き合いも始まった。
カフェにいったり、子供連れてファミレスに行くようになり、親交が深まっていった。
ある日、初めてh君の家に行く事になった。息子から散々、お世話になってる聞いていたので手土産を持参する事にした。
インターホン押し、応答があり、ドアが開く。開いた先には尻尾りながら愛想ふりまくポメラニアンの姿あった。
「可愛い」と言いながらポメラニアンをなでる。息子から聞いてはいたが、とても可愛いワンちゃん。
「さぁ、入って」とh君のお母さんに言われ、部屋に入っていく。
「これ、いつも息子がお世話になってるから」と手土産を渡す。
「そんなに気を使わなくっていいのに」
「いいから、貰って、ほんとに毎回、ありがとうね」
「全然、そんなの気にしないで、ありがたく頂くね」と言いリビングに向かっていった。
その間、ポメラニアンはh君の母親の足元にいて、常に一緒に行動していた。その姿もとても愛らしかった。
h君の母親がダイニングからコーヒーとお菓子も持って来て、そこから二人で談笑をし始めた。
その間、ポメラニアンはh君の母親の横で寛いでいた。
ポメラニアンの話になった。
「いつ頃から飼い始めたの?」
「三年前かな」
「h君が飼いたいっていったの?」
「いや、hもペットが欲しいとは言ってたけど、私が一目惚れして、飼うようになったの」
「それで、凄くなついてるのね」
「そうね」とh君の母親は微笑みながらポメラニアンをなでた。
その後も、h君のお母さんとは友好的な関係は続いていた。
数ヶ月後、再びh君の家に行く用事出来た。
例のごとく、三男の子は度々、h君の家でお世話になったいたので、手土産げを持参し家を訪ねた。
インターホン押し、応答があり、ドアが開く。h君のお母さんが出てくる。
「さぁ、入って」と言われ部屋に入っていく。
「これ良かった」と手土産を渡す。
「えぇ、いいのこれ中々、買えない所のお菓子でしょう?」
「たまたま買えたから、食べて」
「ありがとうね、コーヒー淹れてくるからね」ダイニングにh君お母さんが入っていった。
リビングのソファーに腰掛ける。そういえばポメラニアンの姿が見えない、前回、みたく撫でたかったのにと少し残念だった。
部屋の隅にゲージがある事に気づいた。
前回、来た時にはなかったと思う。そこにポメラニアンがいるのかと思い近づいて見てみると、チワワの赤ちゃんが寝ていた。
その姿、なんとも可愛い姿だった。
「可愛い」と声を漏らして見ているとh君のお母さんがダイニングからコーヒーを運んで来ていた。
「チワワ飼ったの?」とh君お母さんに聞く。
「そう、一昨日、ペットショップで見かけて、一目惚れでね」と嬉しそうに話す。
ポメラニアンの姿が見えないのはチワワと慣れるまで離してるからこの部屋にいないのだと思った。
「ポメラニアンの子はどこにいるの?」と聞く。
「あぁ、あの子、チワワ飼うから、いらなくなったでしょう。だからね、昨日、保健所に連れていったの」とにこやかに話す。
「えっ、保健所?」と予想だにしない答えが返ってきて、聞き返してしまった。
「そう、昨日、行ってきたの、あぁ、見て欠伸してる、可愛いわね」とチワワに優しい目を送る。
「か、可愛いね」と戸惑いながら相槌を打つ。そこから、h君のお母さんとの会話は全然、頭に入って来ず、適当に話をして、用事があると嘘をついて。そそくさとh君の家から帰っていった。
そこから、h君のお母さんとはなるべく関わらない様にする事にした。
h君のお母さんからたまにお誘いの連絡が来るが何かと理由をつけて断って過ごした。
息子には「h君とあまり関わらないで」とは言えるはずもなく、「h君の家に頻繁に行くのは迷惑がかかるから辞めなさい」と釘を刺す程度しか出来なかった。
そこから五年生なりh君とは別のクラスになった。そこからh君とはあまり遊ばなくなり、自然とh君のお母さんとは合わなくなっていった。
一年後、たまたま、道端でばったりh君のお母さんと合った。
「久しぶり」と声をかけられ近況を話し合った。
ばったり会い驚きあったせいか、会話は弾まなかった。
「じゃあ、またね」とh君のお母さんが察してくれたのか、別れの言葉をくれた。
h君のお母さんが持つリード先のプードルの後ろ姿を見て、胸が締め付けられる思いで帰路についた。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?