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熊のいる国

※今回の記事は、自分の知見やら、山に住んでいる友人、実家の親などから聞いた話を元に語っている。Web上の情報も含んでいる。
なるべく正確であるように情報の真偽を確認するようにしているが、間違いや記憶違いがあったら申し訳ない。

私の実家付近にはクマが出る。
しかし今までクマを駆除してくれていた地元の猟友会と町の仲が悪い……というか、悪くなった。
(猟友会とは、狩猟道徳の向上、野生鳥獣の保護、有害鳥獣の駆除、自然環境の保全などを目的として活動するハンターの団体である。「猟師の仕事を放棄するなんて最低」などと誤解されているようだが、職業でやっているわけではない。猟友会は単なる趣味サークルなのだ。趣味サークルに、我々は満足な謝礼も出さず命がけで守ってくれと要求してきた。これが長年の慣例であり、これまで対策せず猟友会に頼り切りだったシステムに問題があると思う)
この小さな町で、役場が提示したクマ駆除への謝礼が少なすぎて交渉決裂したという話が全国ニュースに載ったのは今年の春のことだっただろうか。

あの話は、ただ金額が少ないことが原因で断ったものではないらしい。
そもそも今までずっと無償に近いかたちで協力していた。お金儲けがしたいわけではない。
事前の相談もなく「鳥獣被害対策実施隊作ったから参加して。1日8500円で全部やって。撃った時は1800円加算するからさ」という決定事項を提示されたことが腹に据えかねたらしい。
この報酬には駆除後の解体や焼却処分まで含まれるそうな。
100~400kgとかあるクマを持ち上げてトラックに乗せて処理場に運ぶ。そこにどれだけの労力がかかるのだろう。

猟友会メンバーも高齢化している。ハンターになりたい若者が少ないのかもしれない。クマを撃てるようになるまで(クマに対抗できる銃を所持できるようになるまで)10年かかるという。
役場の職員が今から猟銃免許を所得するため動いても、努力が実るには何年もかかるというわけだ。
猟友会の人たちには、他に本業がある。
それなのに突然「クマが出たから来てくれ!」と言われて、飛んで行く。
駆除に至るまで数日かかる場合もあるし、私ならたぶんやってられない。

それでも今までは住民のためと思ってくれたんだろう。
それなのにあまりにも無神経というか、信頼関係を損ねる話だ。
価値ある行いと思って協力していたのに、行政は何にもハンターのことを考えてくれていなかった。失望したと思う。
現町長の評判を耳に挟んだりすることもあっただけに、とても残念である。

これは、今まで快く引き受けてくれていた猟友会に対する甘えでしかない。

町ではようやく、役場の若い職員に罠をしかける免許を取らせることにしたそうだ。罠をしかけるにも、わな猟免許というものが必要なのである。
クマ駆除は、簡単な話ではないのだ。

そして、隣の市で熊駆除に協力したハンターが訴えられるという事件の裁判が二審で敗訴したのはつい先日のことだ。

発砲したら鳥獣保護法違反や銃刀法違反で訴えるし、動物愛護団体から誹謗中傷を受けるかもしれないけど、命をかけて私たちを助けて下さい……8500円で。


ハンターがいない、来てくれても銃を撃ってもらえない。
それで困るのは誰なのか。もちろん、住民だろう。
農家を生業としている人もいる。もちろん彼らは外で働いている。
養鶏場や牧場などを営んでいる人は、落ち着かない毎日かもしれない。

広大な町内にひとつしかない認定こども園、小学校、中学校、高校。
クマ出没情報が出ている中で通わせるのは不安だろう。車で送迎している親も多いだろうが、それができない家庭はどうしたらいいのだろう。
自分が左右に田んぼの広がる道を4㎞歩いて通学した場所だからそう思うのだろうか。
例の感染症がおさまっても、また子どもたちの行動が制限されてしまう。

隣の市と、私の地元の警察は同じ管轄である。
敗訴したことにはとても驚いたし憤慨もした。
今度の判決に憤っている道民はとても多い。

どうやら、一緒にいたハンターが突然言いがかりをつけ始めたことがきっかけだった……ような話を見た。真偽は不明だが、あちこちで見かける情報なので、本当なのかもしれない。

猟友会の主なメンバーは70代くらいらしい。
町では「猟友会に所属していないハンターに来て貰うことにした」と言い出した。猟友会に所属していない80代のハンターがいるという噂だが……。

クマと対峙するのは命がけの仕事だ。
実際に依頼された仕事でハンターが亡くなったり大怪我することも多い。
ハンターの負傷は被害の数に入らないという。
大怪我で入院や、障害を負っては本業にも支障があるので、保険に入れて欲しいと言っても断られてしまったそうな。
ふと思ったけど、この場合、治療費は誰が払うんだろう……?
しばらく入院してそのまま亡くなってしまったという方の話を聞いたけれど、労災にならないなら自分で出すんでしょうかね?

クマは、遠くからパーンと撃って全身のどこかに当たったらバッタリ倒れてはいおしまい、ではない。
凄腕のスナイパーが遙か遠くから一撃で眉間を打ち抜く……みたいな、マンガ的な天才は、おそらく日本の民間にはいない。暗殺を生業としている人も、あまりいないだろう(そういう存在があるなら日本の「えらいひと」はもっと殺されていると思う)。

クマを撃つためにはかなり近くまで行かなくてはならないそうだ(50m~100m)。
クマは毛皮と分厚い肉に覆われていて硬い。しかし弾が内臓まで届かなければ仕留めることはできない。
急所を狙い定めて撃つ。
撃たれたクマが痛くて暴れることもある。
ハンターの年齢を考えてみてくれ。
同世代の私の親は、とっくに野山を駆ける身体能力はないよ。
暴れたクマによって返り討ちになる可能性もあるのだ。
万が一致命傷にならず逃げられた場合、「手負いのクマ」化する可能性もないとはいえない。
手負いのクマが人里に下りてきて人間を襲う理由は、傷ついた体では野生動物と渡り合えないからだという。
空腹になれば、弱いものを襲うだろう。
この場合、弱いものってなんだろう?
人間である。 
人間は牙も爪もなく、柔らかな皮膚に数枚の布をまとっているくらい。
ほぼ全員が丸腰で、足も遅くて、殴れば一撃で死ぬ。
クマにとっては狩りともいえないくらい、楽な相手だ。
北海道にはヒグマを倒す生き物はいないらしい。
倒せるのは数少ないハンターだけだった。
それを失った我々に残ったのは、絶望だけかもしれないね。

ヒグマは3m先まで鼻が利き、時速60kmで走る生き物。
走行中の車に突進してきて、車体が大きくへこんだ例もある。
それでもクマは無傷だ。
クマは頭が良く、隠れるのも上手。
こっちが気付くずっと前から、クマにはこちらの存在がわかっている。
すぐに襲って来ないのは、機会を伺っているのか、怖がっているのか、はたまた興味がないのか……どちらにせよ、人間側の選択肢は少ない。
命がけっていうのは、あながち大袈裟ではないと思うのだけど……。

しかも撃ったら撃ったで苦情の電話が来る。
「本当に殺す必要があったのか」「残酷、かわいそう」「共生する考えはないのか」「クマに罪はない。あんたが死ねばよかった」「麻酔銃を使って、山に帰すべき」
麻酔銃を何だと思っているんだろう。コナンの見過ぎではないのか。
ぷしゅ! はらほろひれはれ~すやすや~ってなると本当に思う?
人間の手術だって麻酔医が側についているくらい難しいもの。
遠くにいるクマの体重を瞬時に計算して処方できる獣医さんはいるんだろうか? 薬が少なければ効かないし、多すぎればクマは死ぬ。
麻酔銃だなんて簡単に言うけど、麻酔銃は獣医さんじゃないと使えない。
獣医さんをしているハンターなんて、あまりにもレアだろう。
動物の治療をする仕事なのに、ハンターとして動物を殺すのが趣味なんて酷いと叩かれそうだ。
(獣医の仕事にもいろいろあるので治療をする人とは限らないけど、一般の印象的に)
クマに麻酔銃を撃ち込める腕を持った獣医師ハンターがいるとして。
麻酔銃の射程距離はもっとずっと短い。10mくらいだったかな。
一撃で体内に薬液を注入する必要がある。できるの、そんなこと。
麻酔薬を使っている以上、やり直しも難しい。
銃弾より針のほうが角度もシビアなのに。
至近距離と言ってもいいくらいだし、クマが一瞬で意識を失わなければ、襲われる可能性もある。

「愛情があればクマとも気持ちが通じ合える」とか言ってる人がいた。

子どもの頃、近くに子グマを飼っている人がいた。無断で野生動物を飼育してはいけない決まりがあるのだけど、まぁ昔のことだから色々とうやむやだったのかな。許可をもらっていたのかもしれないけど。
近所の人も不安がりながら、でも子グマの愛らしさには和んでいたという。
飼い主は我が子のように大事に大事に可愛がっているという噂はきいていた。
私も通りがかりに子グマらしい姿を一瞬見かけたことはあったけど、親には、絶対に近くに行ってはいけないと言われた。
私は獣医になりたいくらいの動物好きだったし、クマのぬいぐるみも大好きだから、正直とても興味はあった。
ころころとした子グマが床に背中をこすりつけ、短い腕で宙を掻きながらつぶらな瞳で人間を見てる……ような姿を思い浮かべ、きっとすごく可愛いのだろうと思った。
あの頃の子どもたちは、ムツゴロウさんの動物王国を観ていることも多く、クマと暮らすことに疑問を感じていなかったかもしれない。
でも忙しくて行けないでいるうちに、いつの間にか忘れてしまった。

ある日、飼い主はそのクマに殺されたという。
それは愛情が足りなかったのだろうか?
クマは人間ではない。人間の価値観で生きているわけではない。
飢えていたわけではないのだろう。
クマは家族にじゃれるらしい。クマ同士なら噛み付いても厚い毛皮や皮膚が守ってくれるが、人間は違う。
親愛の気持ちで、首に噛み付いたら、飼い主が死んでしまった。
そういう例は他でも読んだことがある。

クマのいる山で生まれ育ち、今も山で暮らしている友達は「クマにも心は伝わる。話せばわかってくれる」と言う。
それも、わからないわけではない。私だって今でも動物は好きだから。

そんな大変なクマ撃ちだが、実は市街地でクマは撃てない。
住民としては、市街地に出てくるからこそ助けて欲しいんだが。
クマが出やすいポイントを住民は把握していて、そのあたりには行かないようにしている。
住民としてはクマがいるのが当たり前……というか諦めているから、共生してるといえばそうなのかもしれない。
しかし、近年は目に余る。さすがにこれは人間様のテリトリーを荒らし過ぎだろう。
夏にはブリーダーさんところのわんこも襲われたとか。やっぱり危ないよ。

あのね……、動物vs人間だと思ってるから変なことになるんだよ。
動物vs動物なの、本来。

自分が動物だと思っていないからクマを憐れむんでしょ。
自分が食物連鎖の中に入っていることもわからずに。


実家のお墓がある墓地があるんだけど、ここもクマが出るポイント。もう何年も行ってない。私はお墓に興味がないからいいけど、お参りに行きたい方だっているだろうし、大事な人のお墓に行けないのはきっと辛いよね。

夏だったか、母に「最近、クマは出てないかい?」と訊いてみた。
母は言った。
「太田精器で開発した、クマを追い払う機械があって。結構効果あるみたい。これでもう大丈夫」
太田精器は、この町の大手企業である。

オオカミ型LED獣害撃退装置
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多彩な仕掛けがあるとはいえ、頭のいいクマ相手にいつまで効果あるのかな……? あと、高性能案山子にこの値段は……。

子供の頃、親から山に入ってはいけないと教えられた。
当たり前である。小学校低学年くらいだと簡単に遭難する可能性があるからだ。
でも、ぶっちゃけ危険なところって楽しいよね。
私は動植物に興味があるタイプだったので、フラフラ山に入るのが好きだった。川で遊ぶのも禁じられたけれど、魚を釣ったり、川を渡ったりして遊んでいたな……。裸足になると水が冷たくて気持ちいいんだ。

そんな子供でも、堂々と山に入っていい時がある。親についていく山菜採りだ。家庭によるが、うちは比較的小さいうちから連れて行かれた。
山菜は子供の頃から身近だった。
母は山育ちだし、父は山菜採りが好きである。親戚も同じだったので、身近に山菜採りをする大人が多かった。
鈍くさくて不器用なかなでは役に立たない、というのが一族の共通認識だったが、けもの道すらない斜面の藪の中をすいすい歩ける街の子供なんているのか……? こっそり山で遊んでいたとはいえ、それは車が通れるくらいの道のすぐ脇くらいだ。怖いから奥にも入らない。
でも、山菜採りは本当に森の茂みの中、藪の中である。何も目印はなく、道もないから、置いて行かれたら迷子になる。必死についていくが、歩調を緩めるような母ではない。振り返ることもない。濡れた草に足を滑らせて斜面を転がり落ちても気付かない。
母がしゃがんで山菜を採り始めると茂みに隠れてしまい、度々見失った。
しばらく姿が見えないと、何かあったんじゃないかと不安になる。
クマに食べられたのではないか。蛇に噛まれたのではないか。
怖いけど、動いたら迷子になってしまう。
母が立ち上がって姿を見せると、ホッとした。

こごみ、うど、ふき、たけのこ、たらの芽、エゾエンゴサク、わらび、やまぶどう、落葉きのこ……。
うちではやちぶきを食べないが、黄色い花を見るのは好きだった。
行者ニンニクがあるところはクマが出るということで、名人しか行かない。
当時は「アイヌねぎ」と呼んでいたけど、行者ニンニクとかキトビロとかヒトビロに呼称が変わったそうな。
冬以外は一年中、山に入っていたかもしれない。
でも、幸いなことにクマには遭遇しなかった。

クマが出るのは、たけのこ山が多い。
北海道でもそうだし、東北でもたけのこ採りでクマに襲われることが多いようだ。北国で採れるネマガリタケは高級品らしく、高値で取引されるものらしい。そして、クマの大好物である。
私も子供の頃から毎年のように食べていたけど、美味しいよ。
また食べたいけど、これほどクマが出るんじゃもう採りにはいけないな。
調理の仕方を受け継ぐのは私で終わりなんだろう。

そして、数日前に「北海道の猟友会は、今後クマ駆除を頼まれても断る方針」みたいな話になったという全国ニュースが駆け巡った。
別に仕返しや意地悪で言っているわけではない。
裁判は今までの判例を元に結論を出すものだから、今、同じ条件で事件が起きれば、同じ結果になる。

無事にクマの駆除をして地域の人に感謝されて……その二か月後、急に警察が訪ねてきて銃を押収され、罪に問われる。
青天の霹靂ですよ。何かの間違いだろって思うでしょうね。
私はその街で育ったので、本当に残念に思います。

今どれだけ某市でクマが出没しているかの情報は、市ホームページで見ることができます。
思ったよりいっぱい出てるんじゃん!

そうそう、私はクマと遭遇したことがあります。
知床五胡を観に行った帰りだったと思う。
交差点で、反対車線にバイクのお兄さんと乗用車が。
こちらの車線に私の乗っている車と、後ろに軽自動車が。
そして道ばたにクマがいました。
信号が変わっても、誰も動きません。
だって、クマは速いものを追いかけてしまう習性です。
のんびり草の匂いを嗅いでいたのはまだ子グマで、運よく私たちに興味が無さそうでした。
勇気を出してゆっくり通り過ぎたけれど、バイクのお兄さんは本当に怖かっただろうなぁ。
北海道の広くて長い直線道路。
青空と広い大地。
果てしない大空と~♪ って気持ち良く走っていたら、前方にクマだもんね。
子グマの近くには必ず母グマがいると言われています。
可愛いから連れ帰ろうなんて思っちゃ駄目ですよ。

北海道には昔から有名な熊害事件がいくつもあります。
最近だって度々事件が起こっています。釣り人が食べられたり。
「クマさん可愛い~。撫でたいエサやりしたい抱っこしたい連れて帰りたい! こんなにラブリーキュートなのに殺すなんてありえない!」とか思ってる人はぜひ熊害の情報を探してみて下さい。
そして自分がクマのエサになるがいいわ。はははははははは!!!(狂気)


こほん……。
ずっとクマの話を書こうと思っていたのですが、時間ばかりが過ぎてどんどん情報が更新されて追いつかず……。
この度北海道の猟友会がクマの駆除を拒否するというニュースが出たので、今がチャンスかなと思ってまとめることにしました。
正直あんまりまとまっていないし、うまく伝わるかわからないんですけど。

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