在留カードも一体化するという話_20240305
1:マイナカードとの一体化
政府は2025年度にも外国人の在留カードとマイナンバーカードを一体にした新たなカードの発行を始めるようです。
在留カードとは中長期(3ヶ月以上)で日本に在留する外国人に交付される身分証明書で、外国人の氏名、生年月日、住居地、在留資格の種類や在留期間などが記載されています。
中長期滞在の外国人はパスポートの代わりに在留カードを常時携帯することが入管法により義務付けられています(入管法23条2項)。
運転免許証やマイナカードと同じく、在留カードは様々な場面(アパートの賃貸契約、携帯電話の契約等)で身分証明書として扱われていますが、政府は在留カードとマイナカードを一体化したいと考えているようです。
2:外国人の利便性は向上するのか?
日本政府は外国人(中長期滞在者)にも個人番号(マイナンバー)を交付していますので、マイナカードも日本人と同様に発行しています。従って、在留カードとマイナカードの両方を持っている外国人がいることになります。
外国人がマイナカードを取得するメリットは、在留期間(ビザ)の更新申請手続きをオンラインでできるようになることだと言われていますが、オンラインで申請できるようにするための準備がとにかく面倒です。
まず初めに、オンライン申請のwebサイト(在留申請オンラインシステム)を利用するための利用者情報登録を行う必要があり、ストレスMAXのソフトウェア(JPKI)をパソコンにインストールしたり、ICカードリーダーの準備(わざわざ購入?)も行わなければなりません。
率直に言って、こんな面倒な準備作業を行うくらいなら、今まで通りに申請書を記入して入管へ提出する方が楽だというのが現状だと思います。更に言えば、昨今はスマホが主流ですので、自宅にパソコンがないという方も多いです。
声高に「オンライン申請できます」と言うのであれば、スマホからも申請できなければ意味がありません。仮にパソコンを持っている場合でも利用者サイドの負担があまりにも大きく、ユーザー目線というものが全くありません。
ソフトウェアのインストールやICカードリーダーの設定はある程度のITリテラシーがなければ自力で対応できませんし、そもそもJPKIのシステムが使いにくい。
これに対して、今まで通り申請書を記入して窓口で申請する方法はどうでしょうか。確かに入管は混雑していますが、受付の順番を待ったとしても手続きは数時間で終わります。
このように、外国人がマイナカードを持っていても、ビザ更新手続(入管手続)の面ではさほど便利になっていないというのがリアルな現実です。
今後、在留カードとマイナカードが一体化されたとしても、オンライン申請を利用するためのハードルをもっと低くしなければ意味がありません。
3:現場の実態は?
それでは政府はなぜ在留カードをマイナーカードを一体化しようとしているのでしょうか。
その思惑についてはあえて触れませんが、要はどんな手段を使ってでもマイナカードを普及させたいと言ったところでしょう。
すでに、2024年12月2日に従来の健康保険証は廃止されマイナカードと一体化されることが決定されていますが、医療現場ではマイナカードによるトラブルが多数起きているようです。
医療サービスのユーザーである被保険者の利便性向上というよりも、政府の都合で強引に一体化を押しすすめたという印象を受けます。
そして在留カードについても、保険証のように廃止はされないものの、ユーザー(外国人)の利便性向上という建前の下に、マイナカードとの一体化の標的となりました。
どうやら政府にとって「マイナカードを普及させる」ということは、何よりも優先されるべき国家戦略であるようです。
4:本質的な問題
本質的な問題は、「入管における慢性的な人手不足」です。東京出入国在留管理局(東京入管)の話で言えば、入管を利用する外国人の数(ユーザー数)と申請を審査する職員の数は、絶望的に非対称です。
弊所かなでパートナーズの事例ですが、昨年9月に東京入管へ申請した「在留資格認定証明書」(外国人が新規に日本へ入国する際に申請する証明書)の審査が終了したのは今年の2月でした(審査期間6ヶ月間)。
もう少し情報を加えると、これは就労系の在留資格で、通常であれば3ヶ月程度で審査が終了するものです。
審査期間が6ヶ月もかかるというのはどう考えても異常事態です。
これ以外にも、在留期間更新や在留資格変更など、あらゆる手続きにおいて審査期間が長期化しています。
昨年、コロナ禍が明けて、海外からの新規入国者が増加すると共に、入管の業務が逼迫し審査期間の長期化が顕著になってきました。
特に、在留資格「特定技能」による新規入国者の増加が際立っており、すでに東京入管の事務処理能力は限界に達しています。
外国人や外国人を雇用する企業などのユーザーの利便性向上を本気で考えるのであれば、まずは入管の事務処理能力をアップすることが最優先ではないかと思います。
オンラインで申請することができても、審査期間が遅いようでは本末転倒です。
この問題が解消されない限り、外国人にとっての入管手続きは「ストレスに満ちた」ものであり続けるでしょう。
今後、特定技能ビザの対象分野が拡大すれば、入管の業務量は過去に類を見ないペースで増えると思われますが、今のままでどう対応しようと考えているのか甚だ疑問です。