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【忌憚幻想譚3話】貴女が見た世界【短編ホラー集】

 ――貴女が見た世界が本物であるとしたら、世界はただ誰かの手の内で転がっているだけなのだ。

 最近よく変な世界を見るという、へんてこな事を言い出したのは美空だった。

 美空はごくごく普通の女の子で、取り得といったら運動神経がいいくらい。

 勉強に関しても中の中で、本当に普通の女の子なのだ。

 肩より少し長い髪はいつも高く結ってあって、それが運動神経の良さを表しているとあたしは思う。

 あたしはと言ったら、ごくごく普通というよりむしろ落ちこぼれだ。

 勉強もできなければ、なんの取り得もない。

 もちろん運動なんかもってのほかで、スポーツテストでは平均にも遠く及ばない。

 髪型だって……パサついたショートボブをほったらかしにしているだけ。

 趣味はといったら、そうだな。ゲームをちょいちょいするくらい。

 それから、お菓子を作るのだけは好きだった。


 とにかく。

 美空が変な世界がどうこう言い出したので、あたしは最初、給食の牛乳にストローを刺すことすら忘れて口に運んだくらい動揺していた。

 我に返って「何? それ何の冗談?」と言うと、彼女は至極真顔で「冗談なわけがない」と言う。

 いや、そんな真顔で言われても。


 あたしは少し間を置いて、もう一度聞いた。

「どういうこと?」

 美空は給食のコロッケを口に詰め込んでいたので、ちょっと待ってという素振りをして牛乳を飲んだ。

「んん、それがね、気がついたら急に見たことない世界に立ってるっていうか」

 コロッケを急いで飲み込んだのか、胸の辺りをとんとんとしながら彼女は少し考えるように言う。

 あたしは、こんな普通の子でも急に頭がおかしくなることがあるのかしらと首を傾げていた。

 でもまるでゲームのような話だったので、あたしは少し興味を持ったんだ。


 だから今日、放課後に美空と遊ぶ約束をして午後の授業を受けた。

 胸の奥にどこか弾むような高揚感があって、授業の内容はあまり頭に入らなかったけれど。

 そうして放課後。

 帰ってからすぐに出かけようと思ったけど、手ぶらも何だなと思ったから冷凍庫に保存しておいたクッキーの生地を切り分けた。

 適当にオーブンに並べて、焼いておく。

 この間にシャワーを浴びて着替えれば、準備が出来るころには熱々のクッキーを持っていくことができるはずだ。

 あたしは鼻歌混じりにシャワーを浴びて、さくさくと準備をした。


 その間、美空の話を考えてみる。


 こうやって立っていて、気がついたらいきなり別の世界にいるらしい。

 その世界は見たことがない世界だと聞いたけれど、美空は驚いたんだろうか?

 いや、そもそも、その世界にいる間に美空は何かしたんだろうか?


 そこまで考えて、オーブンのチーンという音と共に我に返る。

 いやいや、あたしまでその話に呑まれてどうするの。

 そんなゲームのような世界があったら、頭のいい人類はとっくに気がついているはずだ。

 まぁ、あたしみたいな落ちこぼれもいるけども。


 ――クッキーを持って家を出た。


 あたしと美空は幼稚園からの幼馴染なので家もそう遠くなかった。

 ここから自転車で5分ほどの距離だ。

 空はこれでもかってくらいに快晴、空気は少し冷たい秋の味だった。


 ピン

 ポーン。


 美空の家のチャイムはいつもピンとポンの間に間があった。

 今日もその音は変わらず、しばらく待つとおばさんが顔を出した。

「まぁ、由依ちゃんいらっしゃい! どうぞ」

「こんにちは。あ、これクッキーです。よかったら」

 おばさんはふくよかで、目元が美空にソックリ。いつも笑顔で迎えてくれる優しい女性だ。

 今日も例外でなく、彼女はあたしを招きいれて笑った。

 まぁ、まぁ、それじゃあお茶いれなくちゃね。おばさんは言いながら奥に引っ込んで、代わりに2階から美空の声がする。


「由依ー、上がってきてー」


 はいはい、と聞こえない返事をして玄関にあがり、私は小さくお邪魔しますと言った。

 玄関から左奥に見える階段を上がって美空の部屋に入ると、彼女はふわふわのベッドに座ってあたしを待っている。

「わざわざ来てもらってごめんねー」

「いやいや、気にしなくっていいよ」

 あたしはいつものように適当に座った。

 美空も床に座り、最初は学校の話とかテストの結果だとか、そういう他愛もない話で盛り上がる。


 いつの時代も、女子っていうのはこういうものなのかも。


 あたしは美空と話すこういう時間が案外好きだった。

 いや、美空だけが友達ってわけじゃないけど、こういう話は美空とするのが一番楽な気がする。

 しばらく話をしていると、トントンとノックされドアが開いた。

 おばさんがお茶と一緒にあたしが焼いたクッキーを入れたお皿を持っていて、柔らかな所作でローテーブルに置くと「ゆっくりしていってね」と出て行く。

 美空はドアが閉まり足音が一階に降りていったのを確認して言った。


「それで、例の話なんだけど」


「あ、うん。どんな世界なの?」

「うーん、ここよりずっと未来って感じ。地面もなんていうか、鉄板で覆われてるみたいになってて、そこに電気回路みたいなのが走ってるっていうか」

 美空は別の世界の説明を始めた。

 自分が立っているのは、小さな広場のような場所で。

 その広場の周りにはビルのような建物がびっしり建っているらしい。

 色といったらほとんどが金属の鈍い銀、空に至っては灰色。

 たまに地面やビルの回路に繋がれたランプのようなものが赤になったり青になったりするそうだ。

 動くものはあったかと聞くと、見ていないという。

 じゃあ自分は動けたのかと聞くと、試していないそうな。

 白昼夢でも見たのかしら。

 やけにリアルに語る美空の顔はやっぱり至極真顔。

 それが事実なのが当然であるかのよう。

 あたしはやっぱり半信半疑で、というか、むしろ信じられないとさえ思った。


「うーん、やっぱり信じられないかな?」


 そんな気持ちを察したのか、彼女は頬を人差し指でつついて言った。

 困ったときに出る彼女の癖だ。

 あたしは、いやいやと首を振る。

「信じないとかじゃなくって、その、現実味がまだ足りないんだ。今度行けたら歩いて周ってみてほしいんだけど」

 美空は「なるほど」と言いながら少し考える素振りを見せた。

「確信はないんだけど、最近向こうにいる時間が少し延びた気がするの。もしかしたらそういうのも可能なのかも」

 あたしは「え?」と聞き返した。

 美空は少し自信なさそうに言った。

「いや、最初はホントに一瞬、あれ、ここどこ? って思ったらこっちに戻ってたって感覚だったんだ。でも最近は、ゆっくり見渡すくらいの時間があるのよ」

 そして、今度は困った顔をした。

 最初、夢でも見てたんじゃないかと思ったこと。

 頭がおかしいんじゃないかと疑ったこと。

 誰かに話そうかどうか迷ったこと。

 彼女は自分の不安をあたしに打ち明けた。

 それを聞くうちに、あたしは美空の言うことが本当なんじゃないかと思った。


 ……と。美空がクッキーを口に持っていこうとしたときにそれは起こる。

 というか、起こった。

 本当に一瞬だったから、目をこすったくらいだ。


 一瞬、美空が消えたのだ。


 でも、あれ? と思うまもなく彼女はそこに何事もなかったみたいに座ってて、あたしの方を呆然と見ていた。

「み、美空?」

 そこで気がついた。

 彼女の手にあったクッキーは?

 どこにいったの??

 いや、だって、まさか。


「由依……私、今、また行ってきた……」


 もう、あたしはひっくり返らんばかりに驚いて。

 声が裏返ったのが自分でもわかっちゃうぐらい。

「みっ見た! 美空、今、一瞬、き、消えた」

 美空はそれに目を見開いた。

「えっ私消えたの⁉ ウソ、じゃあやっぱり、私あの世界に行っちゃってるの⁉」

 美空は興奮した様子であたしにその世界を歩いたことを語った。

 美空いわく、三十分は向こうに行っていたらしい。

 クッキーもそこで食べたという。

「最初、腕を持ち上げてみたの。それはあたしの腕だった! クッキー持ってたし食べたら美味しかったし! 服装もちゃんと見たけど、このままだったわ!」

 美空がそーっと踏み出すと、硬い地面の上を歩いてる感覚がはっきり感じられたという。

 建物の横に移動して壁に触れると、金属特有の、あの冷たさもわかったらしかった。

「そう、それで、自分の歩く音も聞こえた。それから、冷蔵庫の音みたいな……低いブーンっていう音もずっとしてたかな」

 その世界は機械的な世界なのかもしれない。

 美空は建物の間を歩いたらしいが、どこも入り口がなかったそうだ。

 生き物はいなかったのかと聞くと、動くものはいなかったと言った。

「……ねえ由衣。クッキーは持っていく事ができたんだから、他の物も持っていけるかな?」

 ややあって美空がぽつんと言ったのを聞いて、あたしは胸が躍ったのを感じた。

「それだ! それならあたしも一緒に行ける気がしない? あ、でもいつ飛ぶかわからないんだよね。じゃあカメラ持って行くのはどうかな?」

 そうよ、そうだわ。

 それならあたしもその世界を見ることができる!

 あたしはまるでゲームの主人公みたいな体験をすることができるのだ!

 あたしと美空はもう興奮しまくりで、二人であれこれと持ち物の話をした。

 いつ行っても大丈夫なよう、小さなポーチをいつでも持ち歩いていたらいい。

 そして一緒にいるときは、あたしは極力美空と手でも繋いでいたらいいんだ。

 なんていい案なんだ、とあたしは思った。


 その後は二人でお小遣いを出し合って買い物に行く。

 かわいい花柄のポーチと使い捨てのカメラ、それからメモとペンを買った。

 まだ私も美空もスマートフォンは持たせてもらっていないからだ。

 美空はおやつも持っていっていいかな? と、飴を大事そうにポーチにしまって笑う。

 それからというもの、毎日が興奮冷めない日々だった。


 美空がその世界に行くと、彼女はすぐにあたしに連絡をくれて世界の話をしてくれた。

 残念ながらあたしが一緒に行けたことはまだないけれど、三日くらいしてカメラのフィルムが無くなったので、一緒にフィルムを現像に出しに行く。

 そして、美空の家で一緒に出来上がるのを待つことになった。

「最近はもうほぼ丸一日をあっちで過ごしてるんだ。だから次は食べ物がないとおなかが空いて死んじゃうかも」

 美空はそう言って笑うと、ポーチから小型のリュックに変更した荷物入れにパンやジュースをみっちり詰め、部屋の中で背負った。

 あたしがその世界に行ったことがなくても、美空とあたしはその世界の情報を事細かに共有していた。

 その世界では、まだ生き物に会えない。

 始まるのはいつも小さな広場からなので、もうその付近の地図も出来上がっている。


「似たような景色しか撮ってないけど、これで由依にもその世界を見せてあげられるね!」


 美空は写真が現像されるのをあたしと同じくらい楽しみにしてくれている。

 あたしは美空みたいな幼馴染がいて良かったと思った。

 今度こそ一緒に行きたいからと、手を繋いでおしゃべりする。

 もちろん、学校のこととか――そういうこともいっぱい話したりする。

 そこは普通の女子と変わらないんだけど、あたし達にはその世界がある。なんだかそれだけで他の子と違う気がしてしまう。


 そう。あたし達は特別だった。


 そして現像ができた頃、カメラ屋に向かっているところで彼女が飛んだ。

 もうすぐだねと美空を振り返ると、そこに彼女がいなかったのだ。

 まさか外で手を繋いで歩いてるわけにもいかないから、あたしはまた一緒にいけなかったんだけど。


 あたしは美空が戻ってくるのを少し待った。


 そういえば、美空が消える時間も少しだけ長くなったのかしら?

 数えていると三十秒ほどで美空は戻ってくる。

 でも、その顔は真っ青。いつもの彼女ではなかった。

「美空?」

「……由依、ダメ、あの世界は……」

「どうしたの? 美空?」

 彼女は突然あたしの腕をぎゅっと掴んで、目を見開いた恐怖いっぱいの顔であたしを見た。


「ダメなの! あの世界に由依は連れて行けない!」


 美空はあたしを掴んでいた腕に視線を移し、まるで触ってはいけないかのように飛びのいた。

「ど、どうしたの? 美空、落ち着いて……」

「ダメ、あれは……あんなのは……」

 美空は頭を抱え込むようにしてしゃがみこんでしまう。

 顔色も悪いし、何かあったのは間違いない。

 あたしはカメラ屋を後回しにして、美空の家へ帰ることにした。


 美空を支えようとするけど、彼女はあたしが触れるのを恐がる。


 というか、あたしが触れてる状態であっちに飛ぶのを恐がっているのだろう。

 彼女の足取りは頼りなくて、今にも座り込みそうだ。

 家に着くと部屋に駆け上がり、彼女はくずれるように膝を突いた。


 あたしは申し訳ないのを承知で、今日は誰もいないという美空の家のキッチンを借りる。

 お茶を淹れ彼女に持っていくためだ。


「……ごめん、取り乱して……」


 温かいお茶が彼女の混乱を僅かに和らげ、少し落ち着いたように見える彼女は深呼吸をする。

 そして世界のことを語った。

「今日、初めて生き物に会った……。あたしと同じ、人間だった。外国の人よ。金髪に青い眼の、女の人」

 彼女はどこからかいきなり現れると、美空をすごい力で引っ張って建物に入ったという。

 入り口がないと思っていた建物は見たことない装置で少し操作すると、目の前にぽっかり穴が開く仕組みらしい。

 その女の人の言葉は英語だったそうだ。

 なんだか怒っているような、怯えているような声音。

 美空に何か言っていたらしいが、彼女はそれが聞き取れず「NO、NO」と繰り返したらしい。

 建物の中は映画に出てくる宇宙船の内部に似ていて、奥に行くとなんと人間が数人いた。

 美空は驚いて彼らを見詰めたまま立ち尽くす。


「~~~~~」


 金髪の女の人が何か言うと日本人らしき男の人が何か英語で返して、そのあと美空に話しかけてきたそうだ。

「君は、日本人かい?」

「そ、そうです」

 歳は四十歳前後くらいだろうか。

 ジーパンに黒いシャツという一般人そのものの格好で、その傍らにリュックが置いてあったという。

「私は林だ。安心して、この人たちはみんな仲間だよ」

「あ、えっと、わ、私は美空といいます」

「美空ちゃんか。君はここに何時間いられる?」

「えっ? 何時間? えっと……一日くらい……?」

 この会話で彼らもまた美空と同じように飛んだ人なんだとわかった。


 美空はなぜこんな――まるで隠れるかのように人がいるのか、なぜ滞在時間を聞かれるのか、まったくわからなかったらしい。

「君は、奴等には会ったか?」

「や、奴等?」

「そうか、まだだったのか。それは幸運だった。奴等に会ったら君は殺される」

「え?」

 美空はそれもまたわからず、ただ立っていた。

 殺されるってどういうこと? と。辛うじてそう思ったらしい。

 彼らは言葉を続けた。

「私たち人間は、奴等の囲いの中で飼われている。実験されている。奴等は定期的に人間を連れてきては体を調べ捨てている」


 少しずつこの世界での時間が長くなるのは、人間の体をこの環境に慣れさせる為なのだ。


 林さんはそう言うと、腕を組んで少しの間沈黙した。

 美空に考える時間をくれたのかもしれない。

「いいか、ここには私たちの仲間が集めてきた食料がある。こちらに私たちの食べ物はないから、自分たちの世界から持ってくるしかないんだ。わかるよね?」

「は、はい……」

「ここにあるのは、今までここに来た人が貯めていったものなんだ。そのほとんどはもう奴等に殺されてしまった。ここはいわば私たちの隠れ家で、ここが見つかったら私たちもおしまいだろう」

 美空は混乱したそうだ。

 今まで「奴等」とかいうのには会わなかった。

 しかしこの状況を見るとあながち嘘ではなさそうだったし、何よりこの世界があると知っている時点で、何が起こってもそれは在り得るのだとわかっていた。

 見渡せば周りにはダンボールの箱が無数に積んであって、中身を見せてもらうと様々な国の缶詰や水、ジュース、保存食が詰まっていた。

 林さん以外には美空を連れてきた女の人、アフリカ民族だという人、それからもう一人アメリカ人の男の人がいて、彼らはどうにかコミュニケーションを取っていたそうだ。

「美空ちゃん、ここまでの道は覚えているね?」

「あ、はい」

「次に来る時は、君も食料を――保存食を持ってきてほしい。できるだけたくさんだ。私は一度こちらにくると2週間は帰れなくなってしまった。まだ短い時間で行き来できる君にも協力してもらわないといけない。しかし、気をつけて。またこの世界に来るということは、君が初めて降り立った場所からスタートするということ。ここに来るまでに奴等に捕まったら……アウトだ」


 美空はその後ほぼ一日、ドアの開け方、奴等の存在についてを聞いて帰ってきたのだという。


 しかし、なぜあんなに美空がおびえていたのか、あたしにはわからなかった。

 話だけであんなにおびえるものなのかしら?

 あたしは美空に聞いた。

「美空は、帰ってくる前に何か見たの?」

「!」

 びくりと肩を跳ねさせた美空は、なにも語らなかった。

 ただ、一言「由依は絶対に連れて行けない」と言っただけ。

 あたしはその日、もう遅かったので帰ることになった。

 美空が心配だったけれど、どうすることもできずに。

「美空……」

「大丈夫、きっとなんとかなる。それじゃあまた明日ね!」

 たぶん、このあと彼女は保存食を買い集めに行くんだろう……。



 次の日。美空は普通に学校に来て、普通に話していた。


 あたしはもしかしたら夢でも見ていたのかもしれない。

 あたしが何か聞こうとしても美空はうまく逃げたような気がするし、もしかして、もうあたしには関わらせないようにしていた気もする。

 けれどそれ以外、今までのことは夢だったのかなと思うほどに美空はいつもの美空だった。


 しかし、それから三日後――美空は消えた。


 話を聞きにいったあたしに、おばさんは彼女が保存食を買い溜めていたと話した。

 家出かしら、どうしてなのと泣くおばさんに、あたしはなにも言うことができない。


 ただ、絶望感と虚無感だけが胸のなかを埋めていく。


 そこであたしは、ふと思い立ってカメラ屋に走った。

 もしかしたら、彼女は写真をそのままにしているのでは?


 ……思ったとおり、まだ写真は置いてあった。


 取りにくるのが遅いと怒られたけど気にしない。

 お小遣いギリギリだったけど、それも気にしない。


 写真には、鈍い銀と灰色の世界。

 無機質な、暗い世界。


 おばさんに見せられるはずもなく、あたしは家で写真を見ながら泣いた。

 美空は、帰ってこない。

 きっともう、帰ってこない。



 ――美空。



 貴女が見た世界が本物であるとしたら、世界はただ誰かの手の内で転がっているだけなのだ。


 そしてあたしは知っている。

 貴女が見た世界が本物だということを。


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