【忌憚幻想譚8話】あいにいく【ホラー短編集】
僕がまだ小さい頃のお話なんだけど。
『誰か』が家に来たときのお話。
僕はすごく恐くって部屋に隠れたんだけど――あっ、あのね、僕の家は庭に大きな木があるんだ。
僕が気がついたら『誰か』はその木の下に、ざくざくと穴を掘っていた。
真っ黒い大きなスコップで、ざくざくと。
暑い暑い夏の日。
ジーッと蝉が鳴いていて、でも、『誰か』は汗ひとつかいていなかった。
それにね、僕の体もなんだか冬みたいに冷たくなるんだ。
不思議なんだよ。眠くてたまらなかった。
ざく、ざく。
ざく、ざく。
ジーッ
ざく、ざく。
ジーッ
『誰か』は、最後に大きなスコップを、何度も、何度も振り下ろして――。
……ジジッ
――気が付いたら、僕は木の下にひとりだった。
誰もいなかった。
部屋に隠れていた僕は『誰か』に見つかって、木の下にいる。
その日からずっとひとりなんだ。
ここは真っ暗で、夏はひんやりして、冬はあったかい場所。
ゆりかごみたいに僕を包み、育ててくれた場所。
ずっと微睡んでいたいけど、もうすぐなんだ。
僕は大きくなったから、ここから這いだして次の『僕』に会いに行く。
『誰か』が僕にそうしたように、真っ黒いスコップを手にして。