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chocho3
【忌憚幻想譚9話】ありがとう【ホラー短編集】
「ねえリコちゃん、ありがとう」
幼なじみのカコちゃんは、いつも私にお礼を言う。
小さい頃から、もうずーっと。
最初がいつだったかなんて思い出せないくらい、小さな頃から。
だから聞いたことがある。
「どうしてお礼を言うの? 私、カコちゃんになにもしてないのに」
そうしたら、カコちゃんは少し困った顔で微笑んだ。
「だって、リコちゃんは私を助けてくれるから」
正直、助けた覚えなんてないんだけどな。
相談を受けたり、転んじゃったカコちゃんに手を貸したり、そんなことはあったけど。
そんなの友達だもん。当たり前だよね。
――そんなカコちゃんからお礼を言われる回数がさらに増え始めたのは、中学生の終わり。
会う度にカコちゃんは「リコちゃん、ありがとう」と言う。
まるでそれが挨拶みたいで、少し変な気持ちだった。
でも、それがなんでだったのか、やっとわかったんだ。
ききぃーっ、だぁーんっ!
全身に衝撃が走って、かーっと半身が熱くなる。
耳がじーんとして、世界中の音が聞こえなくなった。
ぐるんぐるんと景色が回り、アスファルトの上でようやく止まったとき、私が突き飛ばして助けたカコちゃんが向こうからゆっくり歩いてくるのが見えて。
彼女は……微笑んでいた。
「ほら、ね? リコちゃんは私を助けてくれる。ありがとう。……ばいばい!」
ああ、そうか。
これが、助けるってことなんだ。
カコちゃんは、こうなることを……知っていて…………。
私の世界は、真っ暗闇になった。