【忌憚幻想譚7話】Aの写真【ホラー短編集】
夏だから、ほんの少しだけ怖い話を。
私がまだ中学三年生のときの話。
社会科見学でとある城下町跡へと行ったときのこと。
社会科見学では学校が雇ったのであろうカメラマンさんが要所要所で写真を撮ってくれて、あとでそれが廊下に張り出され、自分たちで選んで購入するシステムだった。
歴史の博物館や古い施設、駄菓子屋さんが並ぶ個性的な路地を歩き、楽しい一日だったのを覚えている。
だけど写真が貼り出されると、すぐに噂が駆け巡った。
『Aちゃんの写真だけ心霊写真になってるらしいよ!』
Aは一年のときにクラスが一緒で仲が良く、いまも顔を合わせば話をする子。
優しいけれど言いたいことをはっきり言うような女の子だった。
私はまだ自分が購入する写真を決めていなかったので『そういえば写真見てないや』と思って見にいった。
正直、心霊写真だなんて信じていなかった。
……でも。私は心の底から衝撃を受けることになる。
Aの映る写真に、小さな手、手、手、手……手がある。
赤子の手、だと思う。
彼女の腕に、足に、彼女が映る写真に、はっきりと白い手。
一番目に焼き付いたのは井戸。
井戸にAともうひとりが顔を寄せて、上から見下ろす形で取られた写真。
蓋が閉まっている井戸から……手が。手が。手が。
――でも私はなんだか切ない気持ちになったのを覚えている。
そのあとAにたまたま会ったのでこう言ったのも覚えている。
『A、大丈夫だよ。周りになに言われても気にしなくていいし、私は怖いと思わなかった』
Aは本当は怖かったと思う。
だけど気丈にもこう言った。
『ありがとう。尊敬する先生がね、預かってくれるんだって! 心配しなくていいよって言ってもらったから私は平気』
Aはいまも元気だし、私も写真のことはどうしてかずーっと忘れていた。
心霊番組なんてのを見ても思い出せなかったくらいに記憶の奥深くにあったんだ。
でもなぜか突然思い出した。
とにかくいま感じるのは、神社に行かなきゃってこと。
ちょうど近くにあるんだ、そういうのを鎮めるための場所が。
誰かに祈ってほしいのかなって……なんだかまた切なくなった、そんな話。