母乳バンク、はじめました。【前編】
早朝のラジオニュースに、思わず聞き入ってしまった。
【低体重で生まれた赤ちゃんに、ドナーから集めた母乳を提供する「母乳バンク」が愛知県豊明市の藤田医科大学病院に開設されました。東京以外での設置は初めてです。
今後ドナーを募集し、母乳を必要とする赤ちゃんに提供されます。】
へぇ…。
スマホを手に取り、検索してみる。
我が家には現役乳児がいる。いや、実際のところは一歳半、正真正銘の幼児なのだが、当の本人はいつまでも乳児然、未だに新生児並みの授乳回数をこなしている。わたしとしては不本意だが、まぁアンタがそうしたいなら。諦めの心で、授けているというより、搾り取られている。
そんな訳でわたしの母乳も現役続行、この乳が無駄にならず、世のため人のためになるならば。病院も割と近いし。ホームページを確認すると、案外簡単に登録できそうだ。
果たして一歳半に与えている母乳の栄養素が、新生児の役に立つのか?という疑問はありつつも、とりあえず登録してみることに。
まずはホームページからアンケートフォームに入力。個人情報、出産の記録、自分やパートナーの健康状態、海外渡航暦などを聞かれるのは分かるが、ピアス(医療機関以外で開けた?複数人で共有針使ってない?みたいな)や刺青に関する質問もあり、意外だった。体に穴を開ける、針を入れるってのは結構深刻な事なんだなぁ。わたしは問題なし。
送信後、数日もたたないうちに病院の医師から直接メールが届いた。正式なドナー登録のため、血液検査と面談をするとの事。いくつか提示された日時から選択し、その日を待つ。
県下有数の大病院、藤田医科大学病院に行くのは初めてだ。吹き抜けもある天井の高い造り、長くて広い通路はショッピングモールを彷彿とさせる。そんな巨大な院内に、人がうじゃうじゃいる。外来受付には患者が行儀良く並び、その前の待合椅子も満席、事務の方々が手際よく彼らをさばく。壁には受付番号が表示される電光掲示板、近くにはタッチパネル?の機械…自動受付機か会計機か、とにかくシステマチックに、人がじゃんじゃん回されている感じ。病院慣れしていないわたしは(有難いことだ)、はんぶん物見遊山気分だ。
忙しそうに看護師や医師が行き来している。それぞれの持ち場できびきび働く医療従事者、座学に実習に努力し、資格を得た後も常に緊張感と共に働いてらっしゃる。凄い方々だ。一方、彼らを羨望の眼差しで見つめている自分は脳みそゆるゆる、アンポンタンのパープリンだなぁとマスクの下でへらへらしていた。
小児科の先生と合流する。
個人的に…特に大人になってからだが、お医者さまと話すのは緊張してしまう。「アンポンタンのパープリン」の話を聞いてもらえるだけで恐縮なのだ。
担当医師はあまり気さくではないというか、かと言って俗に言う「塩対応」でもなく、なんだろう、人と目を見て話さないタイプの方というか。緊張気味のわたしとの会話のテンポは、妙にちぐはぐな感じ。母乳バンクとは何ぞや、どんな流れで進むのか、それから先日送信したアンケート内容の再確認などの話があった。
同行する次女を見て、「あ、下にまだ赤ちゃんがいらっしゃる…?」そりゃそうですね、こんなデカいのがジュージュー乳を飲んでると思わんわな。事情を伝え、この時期の母乳が役に立つのか分かりませんが、と添える。成分的に新生児に飲ませなかったとしても、研究材料にはなるだろう、とのこと。妊娠出産に関するエトセトラは、まだまだ解明されていないのだ。神秘的。
搾乳機やフリーザーバックなど必要なものを頂き、血液検査。吸い上げられていく自分の鮮血を眺めながら、あぁ生きてんだなぁ。針を抜いた傷口に、先生がキティちゃんの絆創膏を貼ってくれた。この先生のことが、ちょっと好きだと思った。
血液検査の結果は一週間ほどでメールにてお知らせ、問題無ければ正式にドナー登録完了、搾乳開始となる。まぁ血液検査引っ掛かればそれはそれで大問題だが…。
次女とわたしとキティちゃんで、病院をあとにする。相変わらずの観光気分で、院内のレストランやカフェなんかも覗きながら。
その後、無事にドナー登録完了のメールを受け取ったものの、しばらくは搾乳の機会を作れなかった。娘がちょっと体調を崩したのだ。同居家族が体調不良時の母乳は受け取らないらしい。
そんな訳で先延ばしになってしまった母乳バンク・ドナーデビューだが、いよいよ、はじめての搾乳!
後半へ続く。(続くんかい)