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2024夏の成長記録

 二十年遅れの反抗期がやってきたな、と最近思う。
 家族、とりわけ母に対して、おいおい待っておくれ、それはちょっといかがなものかと思うのだが? という気持ちが出てくる出てくる。
 さすがに切れ散らかして家出をする歳でもなく(そもそも家から出たくない)、二言三言己の考えを告げてその場を去るくらいのものなのだけれど、いやあ、これが噂の反抗心か。
 なるほどなるほど、常人はこれを足がかりに親というものから分離し個を得て自立していくのだな。
 そんなことを感じることがとても増えた。

 母のことは尊敬しているし大好きだしいい人だなと思う。
 だが同時に、ちょっといけませんね……という感情も抱いている。
 そんな思考を過去の私は、持ってはいけないことだと認識していた。負の感情を抱いてはいけない、と。
 けれど、尊敬と苦手は両立するし、好きな部分と嫌いな部分の両方があっても愛情というものは成立するのだと、ようやく、この歳になって気づいた。
 そらそうよ、完璧な人間はいないし、完全に理想的な人格なんてありはしないのだ。
 私だってニコニコしている腹の内では、到底ここで書けないようなことを常日頃から考えている。二面性どころか十面性以上ある。でもそれが人間よ。

 ということで、大人ゆえに無駄に知識があるものだから早くも反抗期の終息が見えてきて、きっとここから私は自分と母を別個体として完全に分離し、己の足で立つ練習をはじめるのだろうと予感している。
 おそらくこれが十年以上前からたびたびメンクリの前主治医に言われてきた、「ひとり暮らししたら?」の意味だったんだろうなあ。無理やり分離してみろや、そしたら見えるものがあるで、ってことだったのかも。
 自立と孤立は違う。分離は離別ではなく、テリトリーを広げることだと考えるといい。そんなことも言われた。十年以上を経てようやく理解できてきた。遅い。遅すぎる。遅すぎて逆に残像だと思われるやつ。
 でもこれはなんというか、理屈というより感覚で理解できなければいけないことなんじゃないか、という気がしている。
 だからいくら知識を仕入れて現象そのものを理解していたとしても、自分事にするにはそこそこの時間が必要だったんだろうな……なんて言い訳をして自分のスロースターターぶりをフォローしておこう。

 世の人間は十代半ばくらいでこの答えにたどり着き、そこからほんの数年で分離を完遂させるっていうんだから、いやあ……すごいなあ……。
 気づくのが遅かった私は癒着がひどくて分離に時間がかかりそうだよ。
 でもいい距離感を探って、これからも自立を目標に家族とは良い関係で暮らしていきたいと思う。まだしばらくはお世話にならないと生きていけない身分なのだ。申し訳ない。
 脛をかじるところから、脛を甘噛みするくらいにランクアップはできたってことで、今は見逃してほしい。

 ・ ・ ・ ・ ・

 てなことを、巨大な船の上から地上を眺めつつ考えた。少し前のことだ。
 地元で催しがあり、それが公共交通機関を使えばギリギリ行けるところで、しかもちょっと興味とご縁がある場所だったことから、ひとりで社会科見学という名の遠足に行ってきた。
 とても気合の入ったイベントで、施設も広大なものだから、20メートルほどの間隔で関係者の方が立って案内をしていた。
 そのひとりひとりに私は、往路で「おはようございます」(後半は疲れて「はよざいまーす」になってた。反省)を、復路では「ありがとうございます」(ありがとうございました、だと吃音が出るので、特別な理由がないかぎりは「ありがとうございます」を使う)と挨拶をしていった。
 合計……何人だろうな……50人くらいに挨拶したんじゃないかな。二年分くらい挨拶したよね。

 いやあ……楽しかった……。
 イベントそのものよりも、誰かに挨拶をし、挨拶を返してもらう(あるいは挨拶をしてもらい、挨拶を返す)という行為そのものが、なによりも楽しかった。
 見学者、という立場であるために極端なレベルでぞんざいに扱われることはないという担保もあって、己からグイグイと挨拶を繰り出していけた。
 最高にハイだった。帰宅してからもしばらく大興奮で饒舌に家族に語りかけていた。たぶん話を聞く家族的にはめちゃくちゃうざかったと思う。
 行き先を伏せて出かけたものだから、帰宅早々「船の中の冷蔵庫がうちのと同じやつだった!」とか頓珍漢なこと言って困惑させたと思う。
 夏の暑さにやられたと思われたかもしれない。ごめん。でも本当に同じ冷蔵庫だった。正確には、うちで使ってる20年物の冷蔵庫の同型最新タイプだった。
 それとお土産として帰りがけに入ったスーパーでゴーヤを1本だけ買ったから、さらに謎が深まったと思う。すまん。食べたかったんだ。深い意味はないんだ。
 あとなんだろう、帰りは交通費をケチって徒歩だった&歩数計アプリいわく船内で階段を27階分上り下りしてたおかげで、夜には太腿の裏が筋肉痛で大変なことになった。深刻な運動不足。でもそもそもの原因は資金不足。

 そんなこんなで、真夏の大冒険(この言葉ももう古いのかしら)をして、精神的に少しばかり大人に近づいた夏の終わりでした。

 ……夏の終わりとか書いたけど、今週まだ気温30度超える日があるって天気予報が言ってたから、まだ夏だな。
 勘弁してくれ。こちとら北国の真冬生まれなんだ……暑いのは本当に駄目なんだ……。

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