眠れ! マグロのように
こんにちは。きっかけアクセサリーのお店カナ・ノワール堂、店主の音海奏乃です。
今回は、短いお話をいたしましょう。
皆さんは、一人で立ち止まってしまったとき、どう思いますか。いいな、なんで自分だけが、置いて行かれたくない、など、いろいろな思いが生まれることでしょう。そんな、お話です。
止まっている期間が長い
何度も書いているので、最初のころからお付き合いいただいている方たちには周知の事実かと思いますが、私は介護と家事の間にハンドメイド活動をしています。
そのため、あまり自由な時間がなく、制作の時間はおろか、撮影やデザインの時間もない日が続き、"ハンドメイド作家としての音海奏乃"を満喫できる時間はとても限られています。ハンドメイド作家として活動していて、SNSもあって、ショップもある。それなのに、なかなかハンドメイド活動に集中しずらい環境なので、はたから見たら止まっているように見えるのです。
止まっている時間が長ければ長いほど、興味を持ってくれていた方は冷めてしまいます。好きでその環境を選んだわけではないので、そんなこと言われてもな、と思ったことはありますが、それが現実なんですよね。中には、優しいフォロワーさんたちが気長に待ってくれて、新しいご縁につながって、といういいこともあります。それでも、"離れて、止まっている"という現実からは逃れられないので、ときどき悔しさを感じます。
離れていく、その差は
ハンドメイド作家と一口に言っても、いろいろなスタンスの方がいますよね。時として同じように悩んでいる人を見かけたりすることもありますし、ちょっと前までつまづいていた部分で困っている人を見かけることもあります。
そういう投稿を見ては、素直に応援できない自分が表れて、悲しい気持ちになっています。特に、似たようなことで悩んでいた人が、どんどん力をつけて、素敵になっていく姿を見ると、何とも言えない気持ちになります。うれしい気持ちがあるのは事実です、「あぁ、あの人は工夫してこういう風に成長したんだ」とわかるのは、単純にすごいな、そういう発想もあったんだな、とうれしい気持ちになります。でも、心のどこかで、「私ができない間に、どんどん進んでいって、置いて行かれてしまった」という悲しく、悔しい気持ちもあるのです。
人間ですもの、いろいろな感情を抱くのは当然です。なのでいわゆるマイナスの感情になっても、いったんはそれを受け止めます。「置いて行かれた感じがしているんだな」と受け止めてから、それはなぜ、と掘り下げていき、自分と向き合って、最終的には自分なりの答えを出すようにしています。
ほかの作家さんと差がついていくのは、なんだろう、と考えたこともあります。技術、センス、それとも……。最終的にたどり着いたのは、やはり"時間"でした。時間だけは、私にはどうもできません。家族の都合が最終戦で動いている以上、自由がないのですから。ほかの作家さんが広い海で泳ぐマグロなら、私は養殖場の限られたスペースで泳ぐマグロなのです。まぁ、もちろん養殖には養殖の良さがありますがね、住む場所の心配がないとか……。
止まっていても止まらない、それがマグロ
マグロが泳ぎながら眠るのは有名な話です。彼らは寝ている間も泳ぎ続け、呼吸をしなくてはなりません。それを思い出したとき、なんだか私の生活と似ているなと勝手に思いました。
私は、ハンドメイド作家としては集中できない状態、つまり眠っている状態です。でも、"パーツを使ってアクセサリーを制作する"ということから離れていても、"学ぶこと"からは一度も離れていたことがありません。今までの経験から、パーツと向き合って作るだけがハンドメイドではないと思っているからです。
色を感覚的にとらえるために自然の色を観察してみたり、いい写真を撮るためにサイトを検索してみたり、説明文を魅力的に書くために練習してみたり……。作る前から、作った後のことまで考えて、いろいろな知識や感覚を養っておくのです。見たことや聞いたこと。そういう経験や感じたこと、つまり感覚から、新しい作品が生まれ、学んだことを生かして、少しずつ技術を磨いていくのです。
今は便利な時代になったもので、移動中などでもスマホなどから情報をとることができますし、気になったことはすぐに調べられますし、複数の端末から同じものを操作できます。そのおかげで、たとえハンドメイドにかけられる時間が減っているとしても、そのための準備に使える時間や機会はわずかでも確保されているのです。
はたから見たら、眠っているように見えるかもしれません。が、眠っているマグロは、泳ぎ続けて呼吸をする。それと同じで、作品作りができない間も、そのヒントや技術は日々取り入れているのです。少しずつ、少しずつですが、自分なりに進めていることを信じて、今日もまた、ヒントを見つけていくのでした。
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今回は、マグロのお話……ではなく、時間の工夫についてお話ししました。限られて時間の中で、集中して物事に取り組むために、準備を欠かさずに積み立てておくこと。これが、音海奏乃流の、時間との向き合い方なのでした。
きっかけアクセサリーのお店カナ・ノワール堂
音海奏乃