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スペインの海町月曜から日曜

まだ外が薄暗い。
彼は日本のお昼から夕方までの時間でリモートワークをしているから、
6時ごろには電気をつけて、もう机に向かっている。

私は日本語のオンラインレッスンが入っている時間に合わせて起きる。
たまに私も6時から。
全部終わったら昼寝、たっぷり寝られる、と自分に言い聞かせながら
ほぼほぼ目が開いてない状態で
コーヒーマシンのスイッチを押す。

マシンはガガガガガと大きな音を出し、
ジョボジョボジョボと茶色い液体を抽出する。

ああ、コーヒーの香り。朝だ。

少しだけ目を開ける気になる。

これがないと1日が始まらない


二人とも大体お昼くらいには仕事を終えて、
お昼ごはんの時間。

こっちに来る1ヶ月ちょっと前から
ごはんを食べながら「虎ちゃん」を見るのも私たちの習慣になっていた。

彼が登録していたNHKオンデマンドはここでは見られないとわかり、
大好きな朝ドラが見られなくなる危機だったのでVPNを契約した。
15分、見終わると ああ、私今スペインにいるんだっけ、と思い出す。
VPNの契約もオンラインでさっとできる。
つくづく、ホームシックになりにくい時代だなあ。

お昼ごはんでお腹いっぱいになった後はたいてい昼寝。
日本にいた時は15分、とか20分、とか刻んで
タイマーをかけて仮眠をとっていたけど、
こっちではほとんどかけていない。

午後はオフィシャルな仕事の予定がない
というのがタイマーがいらないいちばんの理由だけど、
とにもかくにもここは日が信じられないほど長い。
21時半まで明るいのだから、ちょっと長く昼寝をしても
そのあとにまだバリバリ活動できる、という心の余裕がある。

そうか、
それがスペインでシエスタ(昼食後の数時間の昼休み)ができる理由か、
とこっちに来てやっと理解した。

13時か14時から、17時くらいまでは閉まるお店も多い。
その時間帯は外に出ている人も車も少なく
しんとしていて、町全体が眠ったようになる。

この習慣に慣れてくると、シエスタは
「はい、みんな休もうー!」と言われている感じがして、安心する。
そのおかげかぐっすり寝られて気分がいい。
保育園のお昼寝を思い出す。

シエスタだけじゃなくて、
日曜日はあらゆるお店、スーパーが閉まっている。

土曜日に買い物をし損ねて家に食料品がなかった時は、
google mapに「日曜日:9:00~22:00」と書いてある結構大きめのスーパーを、
「本当に開いてるの?」と疑いつつ、
「どうか開いてて…」と微かな期待をして何軒か回ってみた。

見事にどこも休業していた。
みんなちゃんと休んでいて、すごい。

日本の大晦日、元旦のような静けさが
毎日の13時から17時までと、
週一日あるような感覚だった。

そうして、札幌では毎日営業のスーパーに甘えていた無計画な私たちも
しばらくすると安息日にも慣れ、
日曜日前には食材を買っておくようになった。


平日の、シエスタ明けの町が
どんどんにぎやかになっていくのを見るのもおもしろい。

働く人たちが町に出てくる。
カフェやレストランの人はテキパキと外の椅子やテーブルを並べていく。
さっきまで誰もいなかったカフェに人がどんどん集まってきて、お店らしくなる。


ちょっとお腹が空いてきたら私たちもうちで夜ご飯を作り始める。
たいていトマトベーコンパスタやオムライス、チャーハン、サラダ。
食べながら、ジブリ映画を観る。

ヨーロッパではNetflixにジブリ映画が全部入っているので、
今がチャンスとばかりに、
日本ではなかなか観られないジブリ映画を贅沢に観漁っている。
この部屋の大きいテレビ画面で。
これも確実に私たちの日々の幸福度を上げていると思う。

近所のスーパーの生クリームとトマトソースとベーコンで作ってくれたパスタが感動の美味しさ


21時を過ぎると、やっと、少しずつ日が沈んでいく。
この時間帯にはよく、ねこ用おかしを持って海辺に住むねこたちに会いに行く。

海辺にはねこの家があって、
そこにはベニカルロの自治体の名前があった。
町で管理しているねこの家で、
一度自治体の人が来てねこたちにごはんをあげているのを見た。

ねこたちが外で自由に暮らしていける支援を町がやっているって、
いいなあ、と思う。

私たちがワーキングホリデービザの申請をする国を決める時に、
自分たちがどんなところにいたら幸せか、という条件を書き出していた。
海のある町、猫のいる町...

「ここだ」
と、海でねこたちを見つけた到着2日目には確信した。

たとえ21時ごろまで家にこもって仕事をしていても、
一日の終わりに海に来て、
風を全身で受けて
波の音を聞いていると、
疲れも何もかも吹っ飛んで、
充実感と幸福感でいっぱいになる。

まだ完全に真っ暗になっていない空。
アパートのすぐ近くのケバブ屋さんからは、
まだ一日が終わっていない人たちの笑い声が聞こえてくる。
「楽しそうだなあ」

「今日もいい一日だったなあ」

その幸福感でまた、眠りにつく。

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