吉野和紙を通して考えた、”自然の恵みでつくる”というモノづくりの原点
■楮の皮むき体験ワークショップ@植和紙工房 主催:山の果研究所
新しい年が明け、寒さが本格化する1月20日、吉野和紙の産地・国栖(くず)の「植(うえ)和紙工房」で開催された楮(こうぞ)の皮剥きワークショップに参加してきました。吉野和紙は宇陀商人が売り歩いたため宇陀紙とも呼ばれ、特に掛け軸などの表具用に用いられています。 お伺いした植和紙工房の植さんと、今回のイベント主催された山の果研究所の吉村さんは、自ら楮を植え、育て、収穫して和紙づくりを行っておられます。楮はクワ科の落葉低木。毎年、葉がすべて落ちきった1月、楮を刈り取るところから和紙の原料づくりがスタートします。今回はこの刈り取った木の皮をむく作業を体験しました。
■楮の皮むきと、和紙ができるまでの工程
「皮を引っ張るのではなく、皮と幹の間に親指を入れて割いていくようにむくのがコツです」「皮の裂け目が少なくキレイにむけると、後の工程がとても楽になるんですよ」植さん・吉村さんからレクチャーを受けて、一本一本、皮をむいていきます。実際に自分の手で作業をしてみてると、枝の分け目部分や、虫食いがあると、そこから裂けが生じてしまい、なかなかキレイにむくことができません。そのためお二人は、楮を育てている時からできるだけ枝が出ないように芽を摘んだり、虫食いを減らすような工夫をしているのだとおっしゃっていました。
むきとった皮は束にまとめて、カラカラになるまで天日干しに。今日だけでも結構な作業量だったのですが、和紙が生まれるまでの作業工程を聞いて、その工程の多さに愕然としました。
<和紙づくりの工程>
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①春から秋にかけて、楮畑の管理を行います。楮畑の草刈りや、枝になる芽を摘んだり、つる草の除去を行います。
②冬に入ると、楮を刈り取って長さを揃え、大型の蒸し器で蒸して表皮をむきます。(今回の工程はココ)
③天日干しした皮の黒い部分を小刀で削りとって白い部分だけを残します。
④乾燥させた白い楮を水に浸けてやわらかくし、水洗いしてさらに黒い部分を洗い流します。
⑤変色している部分や小さな皮の残りなどをカミソリで一枚ずつ取り除いて行きます。
⑥大鍋で楮を煮て、槌で叩き、ほぐしていきます。
⑦ねりを加えて混ぜたもので、紙漉きを行います。
⑧乾燥させてようやく完成。
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和紙づくりというと、⑦の紙漉きのイメージが強いですが、実はここに至るまでに、こんなにも前工程があるということに、改めて驚かされました。
■”自然の恵みでつくる”というモノづくりの原点
「自然の恵みを享受し、そこに私たち人間が手を入れて暮らしに必要なものを作る」モノづくりの原点はここにあります。今回の和紙づくりのように、人類は自然のサイクルに合わせて原材料を手に入れ、それを人の手で加工して様々なものを生み出してきました。しかし今の私たちの暮らしは、便利さを追求するあまり、テクノロジーの力を使って半ば力づくで強引にモノづくりが行われていることも少なくありません。結果、使い手側も原材料がどこから来ているのか、どんな人がいつどこでどのようにどんな想いで作っているのか、ということが見えなくなり、モノに対する有り難さや感謝の心を持つことができなくなっているように思います。
「旬のもの」こそ美味しくて栄養価が高いのと同じように、モノづくりの材料についても、「自然のサイクルに合わせたもの」ほど良いもの、という価値観が広がっていくことが重要な鍵を握るでしょう。
■1年で育つ木から1000年以上持つ和紙が生まれるという奇跡のモノづくり
和紙は「1000年以上」の保存性があると言われていますが、1年で育つ木の繊維で1000年以上も保存可能な和紙を作ることでき、そして不要になれば土に還すこともできる。この奇跡のようなモノづくりこそ、まさに今の私たちの社会に必要なモノづくりの考え方なのではないか、そんなことを考えた一日となりました。改めて、今回の貴重な機会を作ってくださった、植和紙工房の植さん、山の果研究所の吉村さん、ありがとうございました。
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