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あってもなくても
「いったいどうしたら、なにかに夢中になれるのだろう。これしかないと思い定めて、ひとつのことに邁進できるのだろう。西岡にはわからなかった。」
『舟を編む』の一文。
夢中になれるものがない苦しみと、夢中で生きている人への嫉妬、あの人はできないことを自分ができると言い聞かせて、なんとか自分を保とうとすること。めちゃめちゃわかるぞ、西岡。
と思いながら、読んでいた。
夢中になれることが幸せだというのは、果たして本当にそうだろうかと思うこともある。
夢中になるものがある。
それしか考えられない四六時中夢中で、それ以外になにも興味がない。才能もある。しかし、人間関係が築けず、社会に馴染めないせいで、人に認められない。社会で評価されない。うまく生きられない。
なのに、曲げることもできず、捨てることもできず、生き方がわからないと苦しむ「笑いのカイブツ」のツチヤタカユキ氏のような人もいる。
夢中になれるものがないのは、苦しみ。
夢中になれるものがあるゆえの苦しみ。
苦しみを感じないようにほどほどにすることの苦しみもある。
人間はどう生きても葛藤と苦しみがある。
生きているとそういう経験をすることがみんなあると思う。