金木犀の香り
家の庭の金木犀が咲き出した。
いよいよ秋が深まってくるのを感じる指標の一つだ。
金木犀の香りを嗅ぐと、息子を妊娠していたときのことを思い出す。
悪阻真っ最中の最悪な気分の中、これまたイヤイヤ期真っ最中の娘のワンオペ育児プラス義両親との同居生活3年目突入期という、満貫ハネマン役満と全く嬉しくない状況下の中
唯一、唯一、唯一気分をリラックスさせてくれたのは、この金木犀だった。
こんなに気分最悪なのに部屋にほのかに漂う香り。思わず顔が綻び、訳の分からないことで騒ぎ立てている娘にも柔軟に対応できた。
そして思い出す子どもの頃の思い出。
香春町の祖母(ちゃあちゃん)宅には二本の大きな金木犀の木が植ってあった。10月にはその小さな花を大量に咲かせ、大量の芳香を放ってみせる。
手で触ると簡単に取れる花を集めては、おままごとに使っていた。
まず、水に花をつけて柔らかくしてから小さなスリコギで潰す。絞った汁はジュースに見立て、搾りかすは丸めておかずにしたり、砂と混ぜておにぎりにしたり。
文字通り華やかでいい香りのする食卓の出来上がりなのである。
30年経っても色褪せない思い出。
秋の金木犀のころが来るたびに思い出す思い出。
もし、死際が選べるならば金木犀の咲く頃に逝きたい。
これから増えるであろう思い出がまざまざと思い描かれて、自分が生きた道を振り返りながら思い出の中でひっそりと旅立ちたい。
そして、子どもが金木犀の咲く頃になったら私のことを思い出してくれたら、私の人生最高だと思う。
こんなセンチな気持ちになるのも
金木犀のせい。
秋の夜長せいなのである。