【55日め】婦人科へ(更年期対策)
心療内科で「適応障害です。ドクターストップです。明日から会社に行かないでください」と言われてから、もうじき一年になる。
体調は春から夏にかけてはそこそこ良く、眠れもしたしたまに抑うつ状態やフラッシュバックがある程度で、あすけんのために低カロリーのものを選んで食べていた旦那はカロリー表示のしっかりしているコンビニ食を好んで夕飯としており、つまり私の家事も掃除と洗濯程度だった。
旦那の単身赴任の話が浮上してからはメンタルがガクガクになっていったが、それは階段状に少しずつ狂っていった感じで、日常生活を送る分にはまだなんとかなった。
最悪になったのは、旦那が家から居なくなった12月からだ。
抑うつ(不安と希死念慮)がひどくなり、起き上がることも困難になった。猫への愛と責任感だけでどうにか「規則正しい時間」に起きて朝の餌をやり、トイレを掃除する。昼間にどんなに寝込んでいても、やはり夕方になれば「規則正しい時間」に猫に餌をやり、トイレを掃除した。
朝、目が覚めるとまず真っ先に死にたくなる。
猫の世話を一通り終えると、義務感だけで風呂に入り、湯あたりしたかのようにゼエゼエとバスマットの上に這いつくばり、少し心臓が落ち着いたらまた湯船に入り、頭・体・顔・歯の4箇所を洗うのにこの工程を繰り返した。
食欲が湧かないため朝食を食べ忘れることも多く、11時近くなってから「薬を飲むため」にバナナだけなんとか食べる、というような状態だった。
少し気分が良い日には、近所のドラッグストアへ行き、猫用品と洗剤等を買い、安売りコーナーの野菜を見繕っては自分のための食材とした。
夕方、猫の餌を与えた後にようやく少しだけホッとする。今日はもう何もしなくてよいという自分への赦しがあるからだ。あの当時は、大抵20時にはベッドに入っていたように思う。
SNSはなるべく見ないようにした。
毎日誰かが誰かを責め、男と女が性差で罵り合い、不景気は皆の心をどんよりさせ、世界情勢は平和とは言えない。
「ふろてら」「<●><●>」「【REC】」していた頃のTwitterはもうそこには無く、傷つけ合い、正しさを競い合うXが代わりに在った。
私の不安障害は強くなり、再就職への心配が非常に強くなった。傷病手当の支給期間はまだ半年以上残っているし、その後に90日分の失業手当だって貰うことが出来るというのに、だ。
夫の単身赴任以降の不調を、私はメンタルのせいだと思っていた。しかし、まさに同時期に、体調にも変化が起きていた。
以下に、ちょっと女性特有のシモの話になることを記すので、見たくない方はここで別のページに移って欲しい。逆に、更年期に悩んでいる方や、妻の更年期へ少しでも理解を深めたいと思っている方には見て欲しい。
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この頃から私は、おりものが多くなっていた。
(おりものが何かわからない方はきちんとした医療系サイトで調べてくれ)
しかも、排卵期によくあるようなものではなく、緑色をしていたのだ。
細菌による病気の可能性も考えられはしたが、それよりも「閉経による免疫力の低下」を私は疑った。酷い風邪を引いている時、鼻水が緑色になるだろう。細菌と戦った後の白血球の死骸。あれと同様だと踏んだのだ。
まあ、素人判断だけど。
しかし、更年期の症状と鬱の症状には似たものが多く存在すること、一年近く心療内科で療養していて寛解を迎えていないことから、私は「今の自分の不調を、婦人科で調べるにはいいタイミングではないか?」と思った。
4年くらい前に、とある高評価の婦人科へ検査へ行ったことがあるのだが、その時は2ヶ月かけた検査の結果「まだホルモン値があるので更年期ではありません」と言われ、けんもほろろに「心療内科へ行ってください」と追い出されてしまった。(そこで紹介された心療内科が、私が以前通っていて、全く効果もなければ医師の態度も悪い病院だったため、より一層「てやんでぇバカヤロー二度とくるか」と立腹しながら婦人科を出た)
しかし今は、明らかに婦人科に検診に行くべき決定打(緑のおりもの)がある。もしかしたら、完全に閉経したのかもしれない。
行こう、婦人科検診!
4年前のあの時も辛かった。
鬱なのか更年期なのかわからないが、鬱の治療をしても状況は改善せず、藁にも縋る思いで訪れたのが婦人科だった。もしかしたら死にたい気持ちが薄れるかもしれない。もしかしたらこの真っ暗なトンネルに光が見えるかもしれない。
その差し伸べた手を、ピシャリと払われた気持ちになった。
ホルモン値の結果だったとしても、せめて医師からもう少し優しい言葉が与えられていたとしたら。他責思考かもしれないが、自分に下された絶望に対し、そんなことを今でも考えてしまう。
さて、今回訪れるのは初めてかかる婦人科だ。
混み合うことを予想して早めに向かったのだが、平日ということもあり、待合室には3人程度しかいなかった。誰もがこの真冬に、分厚いコートを脱いでいる。わかる、わかるよ、火照るよね……いや全員が更年期とは限らんけど。おめでたの方もいらっしゃったかもしれんけど。
幸い、こちらの先生は、とても穏やかに、丁寧に話をして、丁寧に話を聞いてくれる医師だった。それだけで既に私は救われた気持ちになった。
「更年期は病気じゃない」
「更年期は誰にでも起こりうる」
だからなんだ! 辛いものは辛いんだわ!!
そんなやけっぱちを起こさせない寄り添い方に、まだ何も起きていないただの問診の状態で、早くも私の心はだいぶホッとさせられていた。
血液検査の結果が出るにはまだ時間がかかるが、その前に現在の症状を鑑みて、先んじてエストロゲンの貼り薬が処方された。
ああ、ずっと欲しかったこの薬。
効き目があるかどうかは人次第。
副作用が出ることも有り得る薬。
それでも、「もしかしたらこの苦しみから抜け出せるかもしれない」という可能性を与えられただけで、泣くかと思うほど嬉しかった。
帰宅して、早速下腹部に貼付してみる。「貼り終えたら手を流水でよく洗ってください」との注意書きに、ただの絆創膏に見えるコレが、確かに人体に影響を及ぼす薬品なのだと背筋が伸びる。
ああ、どうか効いてくれますように。
もしこれで抑うつや不眠が改善したら、今までの症状が「更年期鬱」であったのだとようやく判明する。鬱や双極性障害や更年期鬱や適応障害は、それぞれに対応した薬を飲み、「鬱の薬を飲んで快方に向かったから、おそらく鬱だね」と体当たり実験的な方法でしか突き止めることが出来ないそうだ。
自分がマウスになった気持ちではあるし、もし原因が別の病気であった場合には効果のない薬を飲みながら何週間も苦しみつつ様子を見ることになるのだが、試せる方法がひとつでも多くあるなら、それは大変な救いだ。
病院までたくさん歩いた為か、久々に外出した為か、倒れそうなほどフラフラだったため、早めに布団に潜り込む。明るくてゆる〜いYouTubeをつけて、ただただぼーっとする。
お腹には、小さな肌色のシール。頂いたばかりの新たな可能性。
ああどうか、どうか苦しみから解放されますように。