【口訳】伊勢物語-芥川

 高校の国語「言語文化」で伊勢物語の芥川の授業した際に調子乗ってつくった口訳 芥川。生徒のウケも狙ったが、自分の物書きの手習も兼ねて書いてみた。
 先日の和歌山で実践発表したところ爆笑を巻き起こしました。嬉しくないといえば嘘だった。
 町田康に影響を受けて書いたことは先に断っとく。


 昔、めっちゃイケメンの男がおった。いろいろあって名前は伏せとく。そんな男でも、とうてい手が届きそうにない高貴で美しい女性がいた。男はどうしてもその女性とええ感じになりたいと思っていたので、長年に渡り求婚を続けていた。しかしやっぱりかなわなかった。
「ああ、もう、我慢ならん。好っきや!」
 ということで、男は思い切って女を誘拐した。
 男は走った。走って走って、都の外の誰もいない暗いところまで逃げてきた。男は女をおぶって逃げて来たのだが、不思議と女は抵抗をしなかった。女の体はしなやかだった。
 芥川という川を渡って進んだところで、女ははじめて口を開いた。
「あれは、何でしょう」
 女は草の上の夜露を指さしている。
「あの光るのは何かしら」
「……」
「あれは、真珠?」
 男はマジかと思った。しかし、まだまだ道のりは長い。「あれは真珠じゃなくてね、露なんだよん」とかスイートな時間は、もうちょっと先に取っておきたい。今はその時ではない。とはいっても真夜中。先に進もうにも何も見えないので、男は闇に紛れて仮眠することにした。雷が鳴り、雨も結構強く降っていたので、ちょうどいいところに建っていたあばら屋で女を休ませることにした。普通だったらここで女のそばに寄り添って、イチャイチャいい感じになりたいところだが、まだ逃げている身である。どこから、誰に襲われるかも分からない。男は弓と矢を背負うための専用ケースを背負って、あばら屋の戸を閉めてそこにに腰を下ろした。
 「愛する人は、自分で守らんと」
 男の決意の表れであった。
 「そうは言うても、はよ夜明けへんかなあ。これだけ雷鳴ったら、さすがに怖いわ」
 あばら屋には誰も来なかった。ただ中に棲んでいた鬼を除いては。男の決意をよそに、鬼は中に入れられた女を一口で食べてしまった。
「いや、やめて、助け……」
 女は必死で叫んだが、轟く雷鳴にかき消され、ついに男の耳にまでは届かなかった。
 しだいに夜が明ける。夜明けとともに雷も雨も止み、ところどころに紫がかった空が見られた。
「やっと明けた。おい、おはよう。少しは寝れたか。雨も止んだし、日が昇らんうちに出発や」
 あばら屋の戸を開けて中を見るが誰もいない。女が、いない。
「おい、どこ行ったんや。なんでや。おい、おーい。わしを置いて行かんでくれよう。やっと一緒になれる思たのにぃ」
 男は泣き崩れた。背負った弓と矢が重かった。どれだけ泣いても、何も変わらなかった。

和歌
あの光るのは真珠? と聞かれた時に、あれは露やでとちゃんと答えて、自分もその露のように消えてしまえたら良かったのに。


シリーズ化を求められている。うれしい。

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