真のヒーロー
2011年3月11日東日本大震災。そのとき私は会社を長期休業し、自宅に引き籠っていた。診断名はうつ病。主治医いわく「教科書にのるような典型的な大うつ病」だった。
人の優しさ、たくましさ。あるいは醜さ、ずるさ。震災からしばらくは、人間のあらゆる側面が一気に吹き出した時期だった。
そんな中にまともに身を置いていたら、病んだ私の心はとても耐え切れなかっただろう。うつ病になると集中力が失われ、新聞やテレビを見ることさえ出来なくなる。目を閉じ耳を塞ぎ、ただ引き籠るしかなかったのは、かえって幸いだったかもしれない。
おかげ様で、やがて私の病気は快方に向かい、社会に復帰した。まもなく10年になる。それなりに社会的な役割も担えるようになった。
東北は私にとって第二の故郷だ。友人も多い。思い出の場所もある。今さらだが、震災当時、彼らのために何も出来なかったことを残念に思うことがある。せめて震災の記憶を風化させまいと、毎年3月になると東日本大震災にまつわる書籍を読み返す。
そんな中、2020年5月5日朝日新聞朝刊で、宮城県の「ご当地ヒーロー」の紹介記事に目がとまった。
東日本大震災を機に「傷ついた子供たちの笑顔を取り戻したい」との一心で生まれたヒーロー『破牙神ライザー龍』だ。
「ヒーローだって泣いていい。でも、何度でも立ち上がるんだ』そのメッセージは、うつ病から抜け出し、もう一度生き直そうとする自分の声と重なった。
「破牙神ライザー龍」を生んだRyu Projectは、その後NPO法人HEROとして認可を受け、今も被災地の子供たちにヒーローショーを届け続けている。最近では更に、ヘアドネーションにも活動の幅を広げた。
自分に出来なかったことを、やってくれている人たちがいる!嬉しくてたまらなかった。何度も新聞記事を読み返し、公式HPにアップされている動画や画像を繰り返し視聴した。ささやかでも応援になるのならと、グッズも購入した。
https://bakishinriser-ryu.com/
必殺光線を放つ無敵のヒーローも勧善懲悪の水戸黄門様もそれはそれでいい。しかし、そこには「勝てば官軍。争いに勝った者こそが正しい」という価値観が根底に潜んでいる。紀元前の昔から戦争に明け暮れ、競争と淘汰の歴史を積み重ねてきた人間の浅ましさそのものだ。
もっと違う生き方があるはず。泣いたっていい。つらいときは『助けて!』と叫べばいい。やがて『もう一度頑張ってみよう』と思えるときがきっとやってくる。
不安と悲しみに泣きじゃくる子供たちに、『大丈夫。君たちにはヒーローがついてるんだから』と肩を抱いてくれる。
こういう価値観は決して新しいものではない。今では欧米型のビジネスモデルにすっかり馴染んでしまい、それを疑問に感じなくなってしまっただけだ。
古来、日本人は人間がとても太刀打ちできない自然と共に生きてきた。日本人のメンタリティは、相手を打ちのめし戦利品を奪い獲るのではなく、何度殴られてもジャイアンに立ち向かうのび太のようなしなやかな強さ(参考 : 「さようならドラえもん」てんとう虫コミックス6巻)にあったに違いない。
杜の都に誕生した「破牙神ライザー龍」のますますの活躍を祈りたい。