学生インターン④愛すべき光景
この日の午前中は完全ノープラン。村内を公用車でひたすらウロウロ。牛飼いのおばあさんを訪ねてみたり、村の文化財に指定されている巨大な石仏を見に行ったり、集落を見渡せる小高い絶景スポットで、ただただ景色を眺めたり。学生インターンといっても、この短期間で何かを成し遂げるために来ているわけではないのだから、こんな風に自由に、気ままに秘境の日常風景を楽しむ時間があったっていいのだ。
午後からは、山師のおじい、Kさん(普段から交流がある方だったので、こう呼ばせていただく)を訪問。こちらの方の住まいは、まさしく天空の一軒家という趣。訪問させていただくたびに「ここは本当に別世界だなあ」と感じていた。聞こえるのは鳥の声、風の音、木々が擦れる音……。とにかく、人工音がひとつも聞こえないのである。なんという贅沢だろうか。人里離れた山奥で、自然に寄り添って生きるとはこういうことなのだろう。
生まれも育ちもこの場所、長男であったために外に出ることはなく(家を継がなければならなかった)田畑を耕し野菜を作り、木を切り、炭を焼いて売ったり、木の実を採ったり狩猟をしたり、とにかく、ほとんどここにあるもので生活してきたそうだ。自作の炭焼き窯も見せてもらった。「今ここにないもの」を求めてばかりの私たちのライフスタイルからは想像もつかないような、地に足の着いた暮らし。「今ここにあるもの」で、慎ましやかな暮らしを営んできた人々の足跡が、回顧やノスタルジーだけで片付けられてしまってよいのだろうか。
SさんはKさんとウマが合ったようで、彼や彼の愛犬の写真を撮りまくり、楽しそうに談笑していた。例に漏れず、昔の写真がたくさん引き出しから出てきて、本人の若いころの写真を囲んで「これは誰でしょう?」なんて盛り上がったりもした。この素朴で温かい、何気ない光景が、この殺伐とした社会の中において、とてつもなく貴重なもののように思えてくるのだった。「心の交流」というのは、こういう場面において使うべき言葉なのかもしれない。愛すべき風景が、ここにあった。
Kさんに聞き書きをする約束をして、この日は解散。
さて、インターンシップもそろそろ終盤!
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