【京都大学 藤井聡】現代貨幣理論(MMT)~経済の新たなパラダイム~|取材
本文は2024年2月16日のXから紹介された「MMT」解説の記事をそのまま転載したものです。
執筆者 JinaCoin編集部(2024年02月15日 17時08分)
MMTとは?通貨発行とインフレーション
ー 通貨発行とインフレーションの関係についてお教えください。MMTの視点では、通貨供給拡大が必ずしもインフレを引き起こすとは限らないと言いますが、具体的な理由にはどういったことが挙げられますか?
藤井氏: インフレ率は、「輸入価格」と「国内生産品価格」の両者によって規定されます。そして、「国内生産品価格」は「政府による実質上の通貨発行量」に正の影響を受けます。ここに、政府による実質上の通貨発行量、とは、要するに、「国債を発行して調達した資金に基づく支出額」を意味します。
つまり、国債に基づく政府支出額(いわゆる「通貨発行量」)が拡大すれば、インフレ率は上昇する事になります。
しかし、上記の説明からも明らかな通り、インフレ率は通貨発行額「以外」の要因でも変動しますから、通貨発行額が変わらなくてもインフレ率が上がることは当然あります。例えば、現下のインフレは、輸入品の価格高騰によるものです。あるいは、戦後直後の日本のインフレのように、戦争による国内産業破壊による供給力の低迷等でも、インフレになることがあります。
MMTにおける税金の役割と通貨の安定性
ー MMTは税金の役割に独自の視点を持っています。税金の存在理由と、なぜMMTでは税金が通貨の安定にどのように寄与すると考えられているのでしょうか?
藤井氏:「税金」には実に様々な機能があります。
一般には、「政府の財源調達のために必要だ」と理解されており、さながらそれ「だけ」が税金の機能だと認識されているやに思われますが、それは(少なくとも日本のような、自国通貨を持ち、それに基づいて行政を行っている国家においては)完全な間違いです。
なぜなら、自国通貨の発行者は、基本的に「政府」であり、したがって、その「政府」は、通貨を税金の形で国民から調達しなくても、自ら通貨を発行することでいくらでも調達することができるからです。(ですからそれはもはや「調達」という言葉が相応しくない程の話です。自ら発行するのですから)ですから、厳密な意味で、税金には「財源調達機能」は存在していないです。
一方で、「税金」には、「インフレ率の調整機能」があります。例えば、税収が過剰に少なければ、政府の財政赤字(すなわち、貨幣供給量)が極めて大きくなり、その結果、インフレ率が過剰に高くなります。そうなると、実質所得が大幅に下落し、国民が貧困化するリスクが拡大しますので、そうした事態を回避することが必要となります。そんな中、税金を拡大すれば、政府による貨幣供給量が縮小し、インフレ率が下落し適正化する事になります(逆に言えば、税収を拡大すれば、インフレ率を高騰させることが可能となります)。つまり、税金には望むと望まざるとにかかわらず、インフレ率の調整機能が存在するわけです。
別の言い方をすると、政府は、「支出額」と「税収額」の両者を調整することで、インフレ率を調整する(つまり、通貨の安定化を図る)ことが可能となるのです。
財政赤字の経済への影響
ー 財政赤字が経済へ与える影響についてお教えください。MMTは財政赤字を積極的に捉える一方で、そのリスクや限界も議論されていますが、ご見解をお聞かせください。
藤井氏:既に上記でも解説しましたが、「財政赤字」とは「通貨供給量」の事を意味します。
そもそも財政赤字とは、「政府支出から税収を差し引いた金額」です。そして、「政府支出」とは政府による貨幣創出量を意味し、「税収」とは政府による貨幣滅殺量を意味します。つまり、政府が「創出した貨幣量」から政府が「滅殺した貨幣量」を差し引けば、当然「政府が供給した貨幣量」だという事になります。
したがって、市場の貨幣量が少なく、デフレ不況になるなどの混乱状況が生じていれば、貨幣供給量が必要になるので、必然的に財政赤字の拡大が求められる事になるのです。一方で、国内製品価格の物価高騰によるインフレが生じ、その抑制が求められる状況にあるのなら、貨幣供給量の縮小が必要になるので、当然財政赤字の縮小(あるいは、財政黒字の拡大)が求められる事になるわけです。
一方で、財政赤字が拡大すると、政府が破綻するリスクが高まるため、それ自体が望ましくない、という事がしばしば言われますが、そうした認識は完全な間違いです。なぜなら、少なくとも日本の様な自国通貨建ての国債を発効している国家では政府が通貨発行者だからです(ちなみに具体的に言うなら、一般の金融機関ですら、破綻するリスクがあれば、日銀はそのリスクを回避するために日銀特融で特別な融資をします。したがって、政府が破綻し、国債価格が暴落するリスクが生じた時、日銀がそうした特別な融資を政府に対して行わないという事態は考えられません。日銀は日本経済の番人なのですから)
MMTの雇用保証制度と経済・雇用の変化
ー MMTの提唱する雇用保証制度についてお教えください。これが実現する場合、経済や雇用にどのような変化が生じると考えられますか?
藤井氏:雇用保障プログラムとは、「政府が、一定の賃金(一般には最低賃金)の特定雇用を創出し、希望者がいる限り全て雇い挙げる」という雇用政策です。これがあれば、(失業者が存在する一定の不況状況では)失業者が限りなくゼロ(あるいは、自然失業率)にまで下落することになります。つまり、完全雇用が達成されることとなります。それと同時に、酷い不況状況では、多くの雇用を雇い挙げる事になるため、必然的に政府支出が拡大し、景気を「温める」効果を発揮することとなります。
一方、景気拡大期において賃金が高騰していく局面では、最低賃金で雇い挙げる上記雇用の従業者は縮小していく事になります。その結果、政府支出額がトータルとして縮小していくこととなるため、景気を「冷やす」こととなります。
つまり、雇用安定化プログラムは、第一に、完全雇用状況を創出すると同時に、第二に、不況期では政府支出を自動的に拡大すると同時に、好況期では政府支出を自動的に縮小する事を通して、経済状況の安定化に貢献することとなります。
国債発行とインフレーションリスク
ー 国債発行とインフレーションリスクについて、MMTでは国債発行に対する懸念を相対的に軽視しているともいえますが、その根拠やメカニズムはどのように説明されていますか?
藤井氏:上記の説明の通り、「国債発行とインフレーションリスクについて、MMTでは国債発行に対する懸念を相対的に軽視している」とは決して言えません。むしろ、インフレリスクに対して、MMTほどに配慮している経済理論は見当たらないとすら言えるでしょう。なぜなら、MMTは貨幣供給量とインフレ率との関係性を、他のどの理論よりもより明確に認識すると同時に、インフレ率の安定化の重要性を(過剰インフレのみならず過剰デフレを避けるべしという認識の下)、他のどの経済理論よりも大きく認識していると言えるからです。