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四国とスペインの巡礼日記 <カミーノ第三章> ③ 光源への道
<第三章> カミーノ 出会いと挑戦 2003年7月
<第三話>
「丘を越え行こうよ♪」「光源への道」「おかしなトリオで楽しい夜」
自分が決めた道で精一杯の力を出して挑戦を続けている限り、いくら苦しくても感謝で乗り切れ、無限の喜びがある。
自分の今の限界から一歩踏み出す勇気。その勇気はどんなに小さなものでも、肯定的、楽観的なエネルギーの流れ。そのエネルギーが運命をサラサラと流れさせてくれるんだろうな~。とか思った。
7月17日 ボアディラ・デル・カミーノ → カルサディラ・デラ・クエサ
いびきがあまりにうるさいので耳栓をして寝てたら寝坊した。8時にアルベルゲを出発。調子よく27km歩いて、カリオンに到着。公園で昼寝。
今日の挑戦はここから。次の町までの17kmは村も木陰もない道。12km地点に木が一本あったくらいで、歩いても歩いても続く砂利道。13km地点あたりに丘があり、「あの丘に登れば、町が見えるはず」と自分に言い聞かせて歩いた。しか~し丘の上から見えるのはまだまだ続く道のみ。
しばらくすると、また丘。よ~し今度こそ!
「あの丘に登れば、町が見えるはず」(二回目)。
しか~し、見えるのはまだまだ続く乾いた道。
分かれ道で道標が無いのでまっすぐ進んだ。でもその後道標が無い。歩けど歩けど道標が無い。にわかに不安になる。間違ったか?でももう戻れない。体力の限界っす。半泣きでスペイン巡礼での宝号と決めた「ありがとうございます」を唱えて歩く。矢印がない。思わず「くそっ!」と言った後にヤケクソの「ありがとうございます」。自分の感情の変化がちょっと面白いのが救い。やっと一つ矢印発見したが不安。町も見えないし、もう限界。
そしてまた丘だ。
「あの丘に登れば、町が見えるはず!」
(三回目)。
もうたまらなくなって最後の力で駆け上がった。すると、少しずつ赤レンガの屋根が見えてきた。助かった~。この荒野の17kmは本当に辛かった。
9時半頃アルベルゲに到着。レストランでビール飲みながら、しみじみ「生きるって何だろう」なんてボーっと考えてしまった。必要なものってほんと少ないよな~。
僕達は必要以上にものを持とうとし、蓄えようとしている。その結果、いろんなものが滞り、バランスが崩れ、ますます競争が起きる。最後には自分に不都合なものを排除しようとする。
そんなことをチマチマと考えているうちに圧倒的な充実感と幸福感に満たされてきた。そして、今日与えられた挑戦を心からありがたく思えた。挑戦が大きければ大きいほど乗り越えた時の喜びが大きい、という何度も聞いたような言葉を圧倒的な感覚で感じた。
今日も、「本当に辿り着けるのか?」という不安を、ワクワクに変える言葉に助けられた。
7月18日 カルサディラ・デラ・クエサ → カルサディラ・デロス・エルマニロス
朝のんびり歩いていて気づいた。
四国は円、生まれ死にまた生まれる輪廻転生の道、祈りが円環する道。カミーノは線、天国への道、サンティアゴという光源、創造の始まりへの道だ。
道が宗教観を表し、二つで一つの道を表しているようだ。
サアグンと言う町のカフェで軽く昼飯。そこでオーストリアからのベアンドと初めて言葉を交わした。アメリカ留学時代の恩人、スコッティに雰囲気が良く似ていた。「Yeah!」という相槌、笑い方、うなづき方などがそっくり。スコッティは、自然な食事の重要性、音楽における創造性、人生の可能性などなど、サラリと生活の中で実践し、見せてくれた人。
その後、カルサダ・デル・コトという町で休んでいるとベアンドが追いついた。一緒に次の町へ出発。木陰の水のみ場を見つけ、シエスタ(昼寝)を取ることにした。起きるとベアンドは日記を書いていたので先に出発することにした。
「次の町のバーでビールを飲もうぜ~」とベアンド。「分かった、先に行って飲んどくよ」。ベアンドは足がメチャクチャ速いから、すぐ追いつくだろう。
着いた町は、カルサディラ・デロス・エルマニロス。道を間違った~!ローマ人由来の別のカミーノ道に入り込んだ。次の町までは、また何もない道が20km続くのだという。まぁ、しょうがないか。さっそくバックパックを宿に置いて、バーにいってビールを飲む。
腹減ったからレストランに行こうと思ったらこの村にレストランは無いという。それでは、と食べ物を売っているお店へ向かう。入り組んでいて見つけるのが大変。店に着くと、店長が僕の「巡礼手帳」を持ってる。
なんで~?
誰かが、道で拾って届けてくれたらしい。そうだ、指さし会話帳に挟んでいたんだった。それを持ってふらふら歩いてたから落としたんだ。
あっぶね~。
今までの巡礼の記録がパーになるところだった。届けてくれた親切な方、ありがとうございます。
もう一度さっきのバーに戻ると、ベアンドが居た。彼もたまたま道を間違えたんだな。そして黒髪の大男が一緒に座っていた。
名前はThor(トール)でバルセロナ在住のスペイン人。トールとはこの後サンティアゴまでの道連れとなった。真っ黒な日本人と”Fuck, Fuck”言っているスペイン人と、その真ん中にやけに落ち着いたオーストリア人のトリオ。はたから見たらおかしな組み合わせだっただろう。
三人で夕食を作ってシェアすることにした。トールは顔に似合わず料理をしたがる。これがメチャメチャうまかった。ベアンドとうまいうまい言いながらワインがぶがぶ飲みながら食べまくった。その後、外に出てバカ話をしている内に、僕達の大騒ぎが近所迷惑になり始めたようだったので寝ることにした。
なんとも楽しいカミーノならではの夜。
7月19日 カルサディラ・デロス・エルマニロス → レオン
案の定寝坊した。ベアンドとトールがもたもたしているので、「先に行くぞ~、早く追いついてくれよっ!」と言って先に出発した。結局その日二人は僕に追いつかなかった。
石のゴロゴロした道が永遠と続く。歌ってもわめいても、やっぱり道、道、そして道。途中で橋の無い川なんかもあった。ほ~、やるね~カミーノさん。やってくれるね~。靴を脱いで渡る。結構気持ちよかった。
レオンに着き、宿に荷物を置き、シャワーを軽く浴びて洗濯をした後、カテドラル(大聖堂)に向かった。レオンはさすがに大きい。
カテドラルまでぼーっと歩いていると、十字路で左から見覚えのある人が思いっきりダッシュで走ってくる。ベアンドだった。「15分後に閉まる靴屋に向かっている」と、とてもあわてた様子。(この後、サンティアゴまでベアンドを見かけることはなかった。 )
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