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四国とスペインの巡礼日記 <カミーノ四章> ① 飛ぶ男と呼ばれて
<第四章> カミーノ 祈りの総決算 2003年7月
<第一話>
「THORの道標」
「飛ぶ男と呼ばれて」
「牛と畑とコンピューター」
この巡礼を始めてから、なんでカミーノの象徴はホタテ貝なんだろうとずーっと不思議だった。レオンまでの道で一つ自分なりの気づきがあった。道標のホタテのマークはよくよく見るとホタテには見えない。なんだか、一つの光源からいろんな方向に光が差しているように見える。カミーノの道もフランス、イタリア、ポルトガルなどを筆頭にヨーロッパ中の様々な場所からサンティアゴに伸びている。
数珠に象徴される四国の円に対し、ホタテに象徴されるカミーノは一つの点に向かう線。その線は一つではなく、限りない。そして、サンティアゴという光源は終点でもあり、始点でもある。カミーノの後半は、自分の祈りや想いが過去、現在、未来という線の中で自由自在に動き回っていると感じた。自分への祈りも他人への祈りも一つ。
7月20日 レオン → オスピタル・デ・オルビーゴ
レオンを6時過ぎに出発。街外れで一昨日バカ騒ぎしたバルセロナからのトールとばったりと出くわした。オーストリアからのベアンドと同じアルベルゲに泊まったという。ベアンドはレオンで無事に新しい靴を買ったらしい。トールが言うには、「眠いから、先に行ってて~」とベアンドはまだ寝ているらしい。
トールは本当に面白いくらい素直で無邪気で、それでいて真面目で深く感じて考えている奴。バカな話をして、Fuck, Fuck言ってると思えば、いきなり「なんだか今の時代は地球のエネルギーが弱くなっているよね」とか言い出す。道端で、花を指差して「これは英語でなんていう?」と僕に聞く。そして、踏む動作をして「じゃあ、これは?」と聞く。教えると、「じゃあ、俺はカミーノの道は踏むけど、花は踏まない」と片言の英語で言って楽しそうに笑っていた。
トールは、自分の名前を杖で道に大きく書きたがった。何度も何度も立ち止まっては、
THOR
と杖で書く。「これをベアンドが見たら、俺が通ったって分かるだろ?」とトール。僕も真似して日本語と英語でたくさん書いといた。話していて、トールと僕のすごい共通点が分かった。たったの10日違いで、同じ年の同じ月に生まれている。そして、ドラムを叩くことを趣味にしていて、今いっしょにカミーノを歩いている。
その日、僕は長い橋と石畳がきれいな町オスピタル・デ・オルビーゴに泊まることにしたが、トールは17km先のアストルガまで行くと言って出発した。
7月21日 オスピタル・デ・オルビーゴ → ラバナル・デル・カミーノ
フランスで手に入れた巡礼手帳はスタンプで一杯になってきたので、アストルガのアルベルゲに立ち寄ってスペイン版の巡礼手帳をもらった。よ~し気分新たに出発!
山の麓の町ラバナル・デル・カミーノには3時ちょっとすぎに到着し、私営のアルベルゲに泊まることにした。とっても良い雰囲気。この町には三軒のアルベルゲがある。
子供用ボンゴを持って町を散策。木陰で気持ちよくボンゴを叩いてから、夕食を食べるために一軒のレストランに入った。そこに、カミーノ5日目にハカで一緒に飲んだイスラエルからの自転車巡礼者ウリが居た。
ウリは一昨日サンティアゴに着いて、昨日ここラバナルに戻ってきて、二週間この町の英国人経営のアルベルゲ(僕が泊まったのとは別の方)で働くのだという。そういえば、そんな話をハカでも聞いていたような気もする。
ウリは今日が初仕事。まさかちょうどその日に僕もこの町に着いて、同じレストランに入るとはねぇ。一日ずれていたら再会しなかった、不思議な縁。お互いのカミーノ道中の積る話をした。
7月22日 ラバナル・デル・カミーノ → ポンフェラーダ
ラバナルからは山越え。登りは得意な僕は、前を歩く巡礼者達をどんどん追い越して進んだ。この時以来、巡礼仲間の間で僕に「Frying man(飛ぶ男)」との光栄な?異名が付いた。でも、本当はもっとペースを落とすべきだった。午後に膝に来た。
ポンフェラーダは古いお城を中心にした大きな城下町。夕方にお城の中に入った。本当に古いお城でボロボロだったが、威厳があり堂々としている。ゆっくりと歩き回った。不思議な気持ちがする。1000年前の人々の息吹が、遠くの山に落ちる夕日と重なった。
四国でもそうだったが、巡礼道の上では、自分自身が個人として感じていることが、昔にそこに暮らしていた人、歩いていた人の集合的な実感や思いとして伝わってくる感覚がとても強い。
7月23日 ポンフェラーダ → ベガ・デ・バルカルセ
山間の村ビラフランカまでの道で、四人のスペイン人グループと会った。二人はおじさんで二人は子供。二人のおじさんは、二人とも名前がAngel(英語ではエンジェルだけど、スペイン読みではアンヘル)という。このおじさん達がてんし~ぃ?、とちょっと心の中で笑ってしまったが、スペインでは珍しくない名前なんだそうだ。そして、二人とも同じ会社に働いている。さらに、その会社は僕の今働いている会社と同じ。
一人目のエンジェルおじさんの1人が言った。「鶏と牛と畑があればそれでいい生活がここにはあって、コンピューター等とは無縁の人達がいる。そういう所を歩くと、本当は何が大切なのかを思い出すんだ。」
ビラフランカから先に進んだ。ここはもっと気をつけた方がよかった。山道と車道の二つの道があり、山道は、距離も長く険しい。山道を選んだが、下りで足がガクガクだった。
麓の町でイタリアからのルイスとヘドウィックに会う。一緒にベガ・デ・バルカルセまで歩き、着くなりルイスとバーに行った。今日出会った人とまるで昔からの友人のようにビールを飲む。最高だな~。でも、ちっと飲みすぎた。
川の流れが聞こえる村にて。
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