四国とスペインの巡礼日記 <カミーノ第三章> ② 霧の中の巨大な十字架

<第三章> カミーノ 出会いと挑戦 2003年7月
<第二話> 
「熱波42.11度」
「霧の中の巨大な十字架」
「フラメンコのおっさん達と」

 サンティアゴにゴールして帰国するためには、一日に35kmから40kmを歩くペースは崩せない。このカミーノは、僕にとって「挑戦」の一言に尽きる。四国遍路で学んだ「感謝」の実践が日々試されている。頭でなく心で望んで与えられた大事な大事な日々なんだ。

四国のお寺で「とにかく真っ白な心で歩きなさい」とアドバイスを受けたことを思い出していた。真っ白な心で、身に起こる全てのこと、与えられる全てのものに「ありがとう」と感謝することで、一瞬一瞬の新しい光がサラサラと入り込んでくる。何かにバランスの悪いこだわりがあると、新しい光は入ってこれない。

巡礼道にいらっしゃる皆さんが言うように、巡礼と人生が一緒なら、日常生活でも大事な大事なコツなんだと思う。今はこの巡礼という、とても恵まれた日々の中で、毎日の出来事をしっかり感謝で受け止める練習を続けよう。

7月13日 アソフラ → ベロラドへ
朝5時にアルベルゲを出発したが、方向が分からず、村の中を行ったり来たりしている内に、結局6時頃アソフラを出た。10時にサント・ドミンゴに到着。大聖堂はでかくて荘厳で圧倒された。地下に通じる階段があり、恐る恐る下りてみた。暗くて冷たい。お寺の戒壇巡りのよう。

昨日浮かせた宿泊費で、パラドール(高級巡礼宿)の朝食バイキングに行った。メチャ食べた。グラノンという町でちょっと昼寝。起きたら、ゴージャスな女性が歩いていて見とれてしまった。そのままポーッとして歩いていたら、道を間違えて2kmのロス。この暑さの中ではたった2kmのロスもかなり精神的、肉体的ダメージが大きい。

昼飯後、猛暑の中を歩いてみた。そして怖いもの見たさで時計についている温度計を見てみた。40度行ったらすごいな~と思っていると、どんどん上がり最高42.11度を記録。さすがに次の町の教会横の木陰で昼寝することにした。

夕方ベロラドという大きな町に着いた。夕食は町のレストランで、ブラジル人、フランス人、カナダ人、オーストリア人、そして日本人の僕というかなりのインターナショナルぶり。それにしても、日本食と日本の映画・漫画の人気と知名度の高さには驚く。黒澤明、北野たけし、宮崎駿、寅さん、クレヨンしんちゃん、などポンポンでてくる。

7月14日 ベロラド →  アタプエルカ
この日は、巡礼道ではなく車道を歩いて50km先のブルゴスまで行ってやろうと決めた。これがまずかった。朝から足に豆がたくさん出来始め、つぶしたら余計に大変なことになった。午前中のうちにあえなくアタプエルカに目的地を変更した。山の中で、昨日のベロラドのアルベルゲに居たスペイン人のアリアンと合流し、サンジャン・デ・オルテガに着いてから一緒に昼飯を食べた。いきなり道教や茶道の話とかを始める不思議な人。

アタプエルカに着くと、ひどい寒気がした。豆と風邪、そして下痢まで来た。う~ん、こういう時に限ってアルベルゲのシャワーは冷水しかでないんだな。身体中にありがとうを祈りながら、倒れるように眠りに落ちた。真夜中に起きると寒気は無くなっていた。ありがとうございます。

7月15日 アタプエルカ →  オルニロス・デル・カミーノ
朝起きると大丈夫そう、歩ける。5時に出発。
霧の中で道を間違え、前も後ろも見えない真っ暗な霧の中に一人きりになった。あわてて道を戻り、矢印を確認して先へ進んだ。すると、「霧の中から巨大な十字架」が現れた。空には、雲に隠れた月がうっすらと見えた。思わず手を合わせた。カミーノでの最も印象的な情景だった。※投稿画像は拾わせて頂いた十字架で実物ではありません。

オルニロスのアルベルゲで、日本人の家族と出会った。そのS山ファミリーは、母と子供二人(7歳と10歳)で、今日ブルゴスから出発したのだという。その後、カミーノ中で有名になった「子連れ巡礼」のS山ファミリーは途中でバスも使い追いついて来て、道中に何度も再会することとなった。 
この日も夕方に寒気が来た。う~ん。しかも、やっぱりアルベルゲのシャワーは冷水か。

7月16日 オルニロス・デル・カミーノ →  ボアディラ・デル・カミーノ
朝6時出発。小麦畑の真ん中を歩いていて、時折子供の声が聞こえる気がした。まさか、S山ファミリー三人組がこんなに早く出ているとは思えないのでちょっと怖くなっていると、休憩中の三人を発見。お菓子をもらって、お供にしてもらった。まーちゃん(弟)とたかしくん(兄)はダイエーファンで野球の話が尽きない。

オンタナスのバーで三人とは再会を願い別れた。途中でバスも使うというので、どっかで会うだろうと思った。それにしても、S山ファミリーの母ちゃんは超パワフルママだ。昨日は、疲れて歩けなくなったまーくんの荷物を背負い、まーくんを前に抱っこして歩いたそうだ。

オンタナスからはドイツ人のトーマスとフィンランド人のマッティと三人で歩いた。彼らもそうだけど、宗教的な理由で歩いている人はとても少ない。カトリック教徒の人達がたくさん歩いていると思いきや、ほとんど会わなかった。

多くの巡礼者は、今の社会や生活のあり方に違和感を覚え、ただ歩くということにたまらなく魅力を感じ、様々に考え感じながら一つのゴールを目指す。そして、その道で出会う人達や景色に学び、時には古い自分と新しい自分を発見し人生の次のステップを模索する。一人一人、それぞれに。

「カミーノは自分の心を歩くこと」、というフランス・ウードス村のパトリスさんの言葉が思い返される。たぶんそれは人生も同じなのかもと思った。自分で選んで歩く道。自由に自由に歩くけど、それは歩かせて頂く道。

ボアディラという小さな町に新しく出来たアルベルゲ「エン・エル・カミーノ」はシャワーやトイレの設備も良く、なにより働いている人達がイキイキとしていて雰囲気がとてもいい。豆の手当てまでしてくれた。

そこで、自転車巡礼をしているアンダルシアからのおじさん達三人と会って飲んだ。フラメンコのリズムパターンをいろいろ教えてくれたけど、多すぎて覚えらんね~。教えているうちに調子が出てきたらしく、結局三人で盛り上がってしまった。手を叩き机を叩きしながら、大声で歌い始めた。おっさん達、一曲始まると止まんないんだな・・・。

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カモシカ関
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