四国とスペインの巡礼日記 <カミーノ第一章> ② 山の中で行き倒れか?
<第一章>
カミーノ フランス巡礼
<第二話>
「山の中で行き倒れか?」
「気づいてしまった大間違い」
「小さな村 アクースにて」
道を聞いても英語が全く通じないことにあらためて感激とショックを受けた。言葉が通じない時、自分がどれだけその言葉という道具に頼って生きているかということを再認識する。そして言葉が無くても通じることが随分と多くあることに今更ながら驚く。
7月3日 ラコマンデ → アクース
次の町で朝飯をめっちゃ食ってやろうと思い意気揚々とラコマンデを出発。
腹減った~。どんだけ続くんだと思うほどのとうもろこし畑を越えて次の町へ、と思ったらとても小さな小さな村だった。通りがかりのおばあちゃんに聞くとレストランも店も次の町オロロンまで行かないと無いらしい。一生懸命フランス語で、「カミーノ頑張ってね」と言ってくれているようだった。
スペインでは、巡礼を「Camino de Santiago」(カミーノ・デ・サンチャゴ)と呼ぶけど、フランスでは、「Chemin de Saint-Jacques」(カミーノ・デ・サンジャック)と呼ぶ。
次の町オロロンまで山を越えて13km。一つ目の集落を過ぎて山道に入ったときに、どうしても腹が減って足が前に進まなくなった。倒木の上に腰掛けてバックパックの中をあさると、日本から持ってきたふりかけの袋が一つ。ふりかけを一つかみ口に放り込んで噛んでみた。なんか栄養が取れた感じ~、がしたのもつかの間でますます腹が減ってきた。
やばいな、「日本人旅行者ふりかけを片手にフランスの山中で行き倒れ!」
なんて見出しつけられたら洒落になんね~ぞ。とりあえず歩き出すと、もう一つ小さな集落があった。一軒の農家の前を通り過ぎようとすると、庭に3匹の鶏が歩いていた。冗談抜きで焼いて食おうかと思った(笑)。
ボーっと鶏を見ていると、その農家からおばさんが出てきた。ここで手を合わせて心からの一言「Un Pan, Please」。なんだこれ、「パンひとつ下さい」のつもりだけどフランス語でも英語でもない。Pleaseなんていっちゃてるし。でもまあ、僕の状況は伝わったみたい。
おばさんはニコッと笑って「待ってて」という仕草で家に入って、三つのパンとパンに塗る豚肉のパテ、さらに「水は?」と聞くので、「ほ~し~い」を身体全体で表現すると、また家の中に入っていき、今度は、水とカロリーメイトのようなものを三本を持ってきてくれた。あんたマリアさんだよ、ほんと。まじ、救われました。ありがとうございます。さっそく道端に座り込んで食べまくる。幸せ~。生きてる~。
無事オロロンに到着し、遅めのお昼を食べて次の町へ向かった。
この日のゴール、サランスは坂道が印象的な小さな村。教会には、正面に聖母マリア様が祭られている。不思議に落ち着く。ここは聖母マリアの奇跡に関する伝説がある村で、湧き出る水を遠くから汲みにくる人たちもいるという。母性と水の繋がりから、なんだかいろんな風景を思い出した。
教会の中の事務所には人の気配がするが、誰も出てきてくれない。しょうがないので教会前の養護施設を訪ねてみた。すると、7時半から夕食だから、後で呼んでくれるとのこと。
そして、夕食までの間、教会の入り口の階段でボーっと巡礼手帳を見ているときにこの巡礼の最大の道間違えに気づいたんだった。
巡礼手帳の9ページ目にカミーノ全体の地図があり、それを見ると、St Jean Pied de Port(サン・ジャン・ピエド・ポー)の他に、Pau(ポー)という地名が載っていた。
なにぃ~!!?
「ピエド・ポー」と「ポー」は違う町?
そう、どうあがこうが二つは全く違う町。
サン・ジャン・ピエド・ポーからサンティアゴまでの800kmを歩くつもりで一ヶ月の休みを取ってきたけど、ポーからではかなりの遠回りになる(多分約200kmプラス)。
やっちまった~!!スタート地点すらままならない状態で巡礼に出発した自分の無鉄砲さに、かな~り落ち込んだ。しかし、ここで楽観主義がなんとか頭をもたげてくれた。
ま、いっか。何とかなるだろ~。
その時、養護施設からシェフの格好をした優しげな40代半ばくらいのおじさんが近づいてきた。「夕食の時間ですよ」と流暢な英語を話す彼はニコラスさん。すこし立ち話をすると、なんと奥さんが日本人だという。「もし良ければ、夕食の後に僕の家に来るかい?」という。なんていう出会い。
これだよ、これ。待ってました!どんなことも肯定的に感謝だけで受け止めて、後は直感に従ってボーっとしてると、必要な時に必要な事が起こり、会うべき人に自然と会って、また全てがクルクルクルクル回りだすんだ。さすがは巡礼の道、その回転は高速だ。
さて、ニコラスさんの家は、サランスから5kmのアクース村。奥さんのミホさんはまだ仕事中だったので、三人の子供達と遊んですごした。まだ三歳の末っ子は人懐っこくて、僕のけつをボンボン叩いてキャッキャッと笑っている。シャワーを浴びさせてもらって、ビールを頂く。さ~いこ~う。
ニコラスさんと話しているうちにミホさんが帰ってきた。元気一杯の肝っ玉おっかさんだ。フランス生活の楽しさ大変さについて面白おかしくいろいろと話してくれた。納豆菌を科学者に培養してもらって、自分で納豆を作って食べているという執念に脱帽。
こんな所で、最高に楽しい日本人に会えるとは・・・、これこそお導きっすね。ニコラスさんとミホさんも夢は、いつか夫婦二人でカミーノを歩くことだという。日本から持ってきた、ホタテ貝を一つお渡しした。ホタテ貝(コンチャと呼ぶ)はカミーノ巡礼の証で、巡礼者は荷物にそれを付けて歩く。
ふかふかのベッドに入ると三秒後には深い眠りの中にいた。
<カミーノ フランス巡礼 第三話>へ続く
「小さな焼き物屋」
「ピレネーを越えて」
「オラー、スペイン!」