国家財政を考えてみよう その3 巨額の地方交付税という歪み

赤字赤字と騒がれる日本の国家財政一般会計は、歳入と一般歳出だけのバランスを見れば黒字であることを前稿で確認した。言い方を変えれば、一般歳出以外の歳出=16兆円もの巨額な地方交付税という本来は国の税金で賄う必要のないはずの費目、が基礎的財政収支を赤字にさせているとも言える構造だ。

では財政が健全と言われるドイツや、その他諸外国はどうなっているのだろう?

第2部 主要国における地方財政の財政調整:財務省
https://www.mof.go.jp/about_mof/councils/fiscal_system_council/sub-of_fiscal_system/report/kaigaichyosa1906/kaigaichyosa1906_06.pdf

まず上記リンク57ページ(表1)にある通り、アメリカでは国による地方財源の調整は全くない。つまり地方交付税は存在しない。

次に同ページの以下記述がポイントだ。
(以下引用)
○ 諸外国の財政調整制度を見ると、国が税源の大宗を持った上で、不交付団体を作らない形で国からの垂直調整のみにより財政調整を行う(英国、フランス)か、地方が国と同程度の税源を持った上で、国による垂直調整に加えて自治体間の水平調整により財政調整を行う(ドイツ、スウェーデン)かいずれかのスタイルが中心。
○ 我が国は、地方税源の割合はスウェーデン並みに大きく、また、税収格差が主要国で最も大きいにも拘わらず、国の垂直調整のみにより財政調整を行っており、諸外国と比べて国による財政調整の負担が大規模なものとなっている。
(以上引用終わり)

この記述の実態は60ページ(表3)に数字で明示されている。

(表3)の数字を見ると、上記引用の記述のごとく、日本の地方交付税は国税税収の30%にも達している。これに対し、アメリカはゼロ。国が税源の大宗を握る英仏も、地方税源が大きいスウェーデンも、国による地方交付税は国家税収の10%前後にとどめ、ドイツに至ってはわずか1.1%だ。ドイツ、スウェーデンはそれで足りない分を、地方自治体間で水平調整している。それに対して日本は、国と地方のバランスはドイツやスウェーデンに近いにも関わらず、地方自治体間での水平調整はせずに、国の税収の30%もの大きな額・比率を地方交付税としてばら撒いているのだ。(近年東京都の税収を地方に配分する水平調整がわずかな額始められているが)

そしてそれが国の一般会計の基礎的財政収支赤字分のほとんど総てである。

つまり、日本の地方交付税が欧州諸外国並みであれば、日本はドイツに次ぐくらいの健全財政、緊縮財政で国論が二分されるほどの英国やフランスよりずっと健全、というレベルにあるということだ。

日本の地方交付税の大きさは異常である。地方交付税は国家税収の30%、地方税収の40%にも上る。言い方を変えれば、国が金を出して地方が行政を実行する捻じれの構造なのだ。これを放置することが財政を圧迫している構造要因なのだ。

この構造を改善せずに、この構造のまま金額的な辻褄を合わせるために国税が増税を繰り返している。おかしくないだろうか?

日本は地方創生を謳っている。その方針を是とするなら、地方行政は地方財源で独立完結する方向を目指し、地方交付税はゼロに近づけるべきではないのだろうか?地方財源確保の為に国税を増税して地方交付税を確保するのではなく、国税はいじらずに(または減税して)、地方税を上げる方向が正しいのではないだろうか?

そのように構造を矯正すれば、国の財政も名実ともに健全化するはずだ。

下記リンク論考も参考になる。

【参考】
財政を圧迫する地方交付税
歪む地方自治
原田 泰 (早稲田大学政治経済学部教授・東京財団上席研究員)
https://wedge.ismedia.jp/articles/-/1736

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