#10 暗い時代は暗いのか
前の記事の続き。ヴォネガット「猫のゆりかご」は、世界の終わりって意外と楽しいかも、という小説だと思う。
「ユーモアは人生の辛い時に作動するエアバッグみたいなもの」というのはエトガル・ケレット の言葉だけれど、笑いって人間にとっての安全装置なのかもしれない。
うろ覚えだけど、「夜と霧」の中で、ガス室に向かうと思った電車が別の場所行きと知った人たちがホッとして、「明日殺されるかもしれない状況は何も変わってないのにホッとする自分たちが笑えてくる」というシーンがあった。悲惨な状況でも自分を笑えることが人間の尊厳なんじゃないか。
「あの時代は暗かった」というのは後の時代になってからの言い方で、その時代にいる間は気付かないことが多い。山本夏彦は「モンペの春は暗かったか」などの言い方で、戦時中の日本でも普通通り暮らしていた場面があったはずと何度も書いていた。「この世界の片隅に」にも同じような要素がある。
もちろん「戦争や災厄があってもいい」という意味ではなくて、どんなに暗い時代になってもけっこう人間って「ふざけている」よな、と思う。暗い時代って、実は大して暗くないのかもしれない。ハンナ・アレントの「暗い時代の人々」を読んでみようかな。
あと、「猫のゆりかご」から終末ものでなんとなく思い出してKindle再読したのだけど、星新一「午後の恐竜」って美しい小説だ。