美術館で学ぶお能ー「物語る絵画」展@根津美術館
記事が前後してしまいましたがマティス展の前日、うだるような暑さのなか今年2度目の表参道・根津美術館へ行ってきました。
先日の横浜能楽堂での「伝統文化一日体験オープンデー」以来、お能について速習講座を自主開講しております。ビジュアルから入る学習としてピッタリな展覧会がありましたので、さっそく出かけてきました。
本展のテーマは絵画化された物語を味わう、というものです。
展示は【展示室1・2】が中心となって3つのセクションで展開しています。
神仏と高僧のものがたり
源氏絵と平家絵
御伽草子と能・幸若舞の絵画
残念ながら館内撮影不可でしたので写真では紹介できませんが、屏風に描かれた作品がとてもよかったです。
フライヤーのメインとなっているこちら(↓)などは、フライヤーでは想像できない大きさに、現物ならではの魅力があります。
中央を横切る舟がなかなか迫力があって、波の表現と浮舟の心許なそうな顔(よくある引き目鉤鼻なのですが)が、これから先を暗示するかのよう。また、左上の銀の月(経年変化で黒いのですが)も不穏なムードを醸し出しています。
こちら(↑)は能の『田村』で語られる、田村丸(坂上田村麻呂)の鬼退治の場面であると最近判明したそうです。千手観音が放ったおびただしい数の矢に鬼神たちが慌てふためく様子が面白い。鬼神はどこかユーモラスでかわいいな、なんて思いながらひとつひとつ表情を見ました。
もうひとつ、初公開の《祇王・卒塔婆小町図屏風》も。右側に『平家物語』から清盛の屋敷を去る白拍子が襖障子に和歌を書きつける場面を、左側に『卒塔婆小町』からの場面を対置した珍しい組み合わせの屏風だそうです。
【展示室5】物語で楽しむ能面
メインの絵画の展示に加えて、2階の展示室では能面と能装束の展示がありました。実は、こちらの方に興味津々!
子供のころは能面を見るなんて怖すぎてできませんでした。お恥ずかしながらこれに関してはおねしょの思い出もあり(笑)・・・高校生くらいでも展示されていてもチラ見してすばやく立ち去るほどでしたが、美術品・工芸品として美しさや制作の裏側を知ることで知らぬ間に克服していたようです。
面は小面、般若など8面が展示されていて、中でも|萬媚《まんび》といわれる妖艶な若い女性の面は美しかったです。
また、装束は4点展示されていました。とくに《水浅葱地鱗模様摺箔》と《黒繻子地丸紋尽模様繍着付》がよかった〜。水浅葱色に金糸でびっしりと刺繍された三角形の幾何学模様の取り合わせが、何ともニクイ!この三角形を鱗に見立てて能では鬼と化した登場人物などが身につけるのだとか。「道成寺」の蛇体などがよく知られているのでしょうか。
着物については多少の知識に助けられ、こうした展示は大好きです。とくに紋様に込められた意味とか幾何学模様の繰り返される意匠の心地よさには、何度見ても見飽きることがありません。そして北欧の手織りを趣味としたことで違った切り口ではあるけれど、反物を織るということの途方もない作業の果てに仕上がる着物というものを想像すると、本当にこうした装束を鑑賞できるのはありがたいと感じます。
ところで、装束は1点、2点と数えるのではなく1領、2領と数えるそうです。へー知らなかった!で、なんで領なのでしょう?あとで調べよう。
それから特別出品されていた《鳳凰天冠》は平成時代につくられた新しいものでしたが、皮革に鮮やかな染料で着色されていました。一見すると土台は金属かと思われたのですが、「皮革」の文字を見て思わず「え!」と声に出してしまった。舞うときのことを考えるとたしかに軽い皮革でつくられるのは合点がいきます。
帰宅後さっそく超入門者向けの本を注文しました。
マンガがかわいくて癒されます。イラストなので鬼もこわくない😀
マンガの次は写真で。舞型の表現解説、専門用語の解説、切符の入手方法に全国の能楽堂一覧など初心者にはありがたい一冊。
そして、外せないのはコレ。原文と現代語訳付きで原文のリズムを感じ取りながら理解できるところがいいですね。そして、難しい漢字にはふりがな付きでやさしい配慮。
フライヤーからは想像できなかった実際の展示内容。行ってみたら「能」の世界を広げてくれるステキな扉でした!ますます興味が湧きました。
会期あとわずか(また😅)ですが、おすすめしたい展覧会でした。