消えた娘たち
2020年12月。
「消えた娘たち」が発行された1985(昭和60)年で、
46歳だった君代は生きていれば81歳。
君代たちが女郎として売られた頃の北海道は、
昭和28年、29年と続いた冷害による農家へのダメージから、
洞爺丸台風や石狩川の慢性的な洪水といった異常気象。
それに続き、まだ経済復興がなされていない状況で
昭和31年には大冷害が起こり、
北海道の農村、漁村では、生活に困窮し
喘いでいる人々が五万といました。
一次産業を直撃した被害による経済の沈下は、
じわりじわりと薄野のような繁華街にも影響を及ぼし、
売春防止法による娼婦の検挙を避ける為、
薄野で裏稼業として働いていた女性たちも
石炭の積出港のある地域や、遠洋漁業を再開した
釧路の花街などへ出稼ぎに行ったりしていたそうです。
私一個人の考えとしてですが、売春という行為は
名称や組織形態が違えど、何時の時代でも、どこの国でも
無くなるものではなく。
また、世相を大きく反映する生業なのではないかと、
思っております。
もし、叶う事なら、今現在の薄野についてを
君代さんにお伺いしてみたいと思うのですが、
それは叶わぬ願いでした。
2017年「消えた娘たち」の著者である川嶋康男氏に連絡を取り
君代さんには、どの様にして出会い取材したのかであるとか、
その後の彼女の消息を伺ったのですが、
彼女は、もう薄野の住民ではありませんでした。
自らの身体を売りながら必死に支えた家族の中で、
末の弟さんが、「姉ちゃんのお蔭で自分は学校に行く事ができた。」
と、東京に呼び寄せたそうで、
晩年の君代は、弟さんの元で過ごしたそうです。
そう聞いてはいるものの、
薄野を歩いていると、つい君代の姿を
追い求めてしまうのでした。