琵琶湖疏水の工事費は今の価値でいくらか?
琵琶湖疏水の工事費は今の価値でいくらか?
琵琶湖疏水の工事費は当時のお金で125万円でした。
これを今の値段に換算するのに色々な方法を考えてみます。
(色々とめんどくさい試行錯誤をしていますので、お忙しい方は まとめ だけ読んでいただければと思います。)
昔の金額を今の価値に換算する方法
昔のお金の価値を現在の金額に換算するのは難しいのですが、
江戸時代の1両は今のいくら? - 貨幣博物館 (boj.or.jp)
いろいろとインターネット上の情報を検索すると、明治時代の1円は概ね2万円というのが妥当な線と言えそうです。
明治時代の1円は現在いくらか。単純な答えが欲しい。 | レファレンス協同データベース (ndl.go.jp)
1円=2万円で計算
1円=2万円とした場合、
アンパン1銭は200円
うどん一杯2銭は400円
小学校教員初任給8~13円は、16万~26万円
となりますので、まあまあ妥当な所ではないでしょうか、
なお、ビール大ビンは19銭で3800円
新橋―横浜の3等鉄道運賃は30銭で6千円
横浜―四日市のフェリー料金は3円50銭で7万円
と、現在の感覚からするとかけ離れた金額となりますが、文明開化で新しく出てきた珍しい物で、現在とは希少価値が違うので、比較対象とするのは適当ではないでしょう。
(ちなみにフェリー料金については岩崎弥太郎の郵便汽船三菱会社と渋沢栄一の共同運輸会社が激しい運賃競争を繰り広げた結果一時期は1/10まで下がったそうです。)
何を基準にするかにより全然金額が違ってくるので、あまり細かく計算しても意味がないですから、ここでは1円=2万円としておきます。
これにより当時の125万円を2万倍すると250億円(算定値①)となりますが、肌感覚的に琵琶湖疎水の工事費が250億というのはちょっと安すぎると感じるんですよね。
現代の類似事業と比較
現代における公共事業費をちょっと調べると、第二京阪道路は1兆550億、関西空港は1兆5623億
この2つは疏水事業より遥かに大きい事業だと思いますので、もっと小規模なもので比較対象を探します。
滋賀県に草津川という天井川が有り、約5,500mの放水路を掘って切り替えた「草津川放水路事業」というものがあり、こちらは事業費が849億円となっております。
https://www.kkr.mlit.go.jp/plan/ippan/zigyohyoka/ol9a8v000000dh62-att/17.pdf
同資料には、「大津放水路」という約2,400mのトンネルをシールド工法で抜いた事業も掲載されていまして、奇しくも琵琶湖疏水第一トンネル(長等山トンネル約2.4km)とほぼ同じ延長を掘削しています。こちらの事業費は641億円
トンネル2.4km+放水路5.5kmというのは琵琶湖疏水とかなり近くないですか?延長は琵琶湖疏水の方が長いですが、断面は2件の放水路の方が遙かに大きいです。
この2つの事業費の合計は1490億(算定値②)なので、琵琶湖疏水規模の事業費としては概ねこの前後でしょう。
琵琶湖疏水事業に関しては、当時の公用地買い上げ規則が適用されて極めて安い用地費で事業を進められたり、部材は官有地から切り出して使ったりしたので、そのへんは差し引かないといけません。
草津川放水路については市街地を含む土地を買収して新たに河川を作っており、849億円のうち用地費が393億円かかっており、これを除くと456億円、同様に大津放水路の用地費31億を除くと、2つの事業の合計は1066億(算定値③)となります。
1円=14万円で換算
琵琶湖疎水誌に数字が出てきて現代と比較が可能なものに、工夫の工賃があります。
1日8時間の工賃はトンネル坑夫36銭、坑内の運搬夫22銭、坑外の運搬夫16銭、女人夫8銭とあります。
令和6年度労務単価で普通作業員は2万2300円、坑外運搬夫がこれに相当すると思いますので16銭で割ると139375倍で、1円=約14万円となります。
これをもって琵琶湖疏水の工事費を計算した場合は、125万円×14万倍=1750億円(算定値④)で、先ほどの草津川放水路+大津放水路の事業費に近い数字が出てきました。
延べ労働者数×工賃で計算
また別の切り口から、延べ労働者数と使用部材費の合計を算出してみる。なお、支保工用の松丸太、切石、レンガなどは官有地から切り出し加工したもので材料費は0であり、労働者の工賃に含まれているものとして計算しています。
分かりにくい表ですいません。現在単価の欄は今の市場価格を入れるべきなのですが、人夫の工賃、石炭価格以外は当時の価格の2万倍を単価としています。 2万倍しても土地価格の安さはやはり際立っています。
人件費800億に対して、その他を合計しても100億に満たず大勢に影響は無いようです。
この計算上は約900億円(算定値⑤)となるのですが、第一トンネルの工事記録によると第一トンネルのみで600万人の人夫が計上されており、合計400万人と矛盾します。
第一トンネルで600万人ならば、全体工事費は上記の倍以上になると思われますので2000億円(算定値⑤’)としておきます。
まとめ
琵琶湖疏水工事費の125万円を現在価値に換算すると
① 消費者物価ベース1円=2万円で換算
250億円
② 現代における類似工事の事業費
1490億円
③ ②より用地費を控除
1066億円
④ 労務単価に基づき1円=14万円で換算
1750億円
⑤ 延べ労働者数+αで計算
900億円~2000億円
上記の推定から琵琶湖疏水は現代に置き換えると1000億円~2000億円中央値を取って1500億円ぐらいのプロジェクトと言うのが妥当なところと考えます。
(余談)
国家予算に対する割合という観点から見ると、
明治を通して、国家予算は2000万円から6億円程度まで増大していますが、
琵琶湖疏水工事時代M18~M23の国家予算は、概ね8000万円前後です。
琵琶湖疏水の125万円は国家予算の1.5625%に当たります。
現在の国家予算を100兆円とすると、その1.5625%は1兆5625万円
ちょうど関西国際空港と同じぐらいの規模感です。
規模感だけで言うとそれぐらいの大事業だったという事です。
ただし、事業費がいくらであったか算定する場合、アジアの小国であった明治時代と世界有数の経済大国となった今日を単純比較するのは、ちょっと誇張が過ぎるように思います。
(蛇足)
ちなみに、日本の国家規模がどれくらい大きくなっているか試算すると、
8千万円から100兆円は、125万倍、通貨価値を1円=2万円で調整した場合、日本の国家規模は62.5倍になっています。