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川
川
記憶の底で 川は命の比喩だった
螺旋階段 この川の源流
揺れるキバナコスモス
川辺の道の 一面に
たしかに知っていた 色の滲みあい
うつくしいもの きれいなこと とうめいなものごと
ことばに汚される以前の
この川の源流
うつくしいもの 切実な記憶
子どもの頃を思い出して 肌に触れる空気
とうめいなもの 薄い綿布
乳臭い弟のおなか
誰もいない寝室 そっと抱き上げた
まだ首も座っていなかったのにね
あの時落とさなくて本当に良かった
夢を見た 命の比喩の夢
本当にうつくしいものが、そこにあったんだ
思い出すんだ 光のにおい
川面に揺れるキバナコスモス
清らかなもの
照り映える山の端
指先を舐め燃え上がる 雪の野に見た熱い炎
はるかに伸ばした腕の先
山吹色に 暮れた空
真夜中の往来 卑猥な喧騒を後にして
ひやりと沈む国道の脇
トラックが風を巻き起こし ガードレールに私はつかまる
流れないでと願っても
流れて、流れて、私は流れて
それでも生きなきゃいけなかった
川沿いの道を一面の花を 泣きながら
うつくしく 歌いあげて