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【連載エッセー第33回】古建具を楽しむ
丸山啓史さん(『気候変動と子どもたち』著者)は、2022年春に家族で山里に移り住みました。持続可能な「懐かしい未来」を追求する日々の生活を綴ります。(月2回、1日と15日をめやすに更新予定)
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私たち家族が住んでいる家は、130年ほど前には既にあったらしい。記録がないので、いつ建てられたのかは不明だ。
いわゆる古民家ということになるのだろうけれど、私たちは古民家に住みたいと思っていたわけではない。畑の世話をしながら暮らせるところを探していたら、たまたま今の家に出会った。
引越しを決める前、初めて今の家に入ったときも、古民家だという意識はもたなかった(知識不足で、もてなかった)。多くの部屋が洋風の装いになっていて、およその見た目は現代的なものだった。
家の改修に向かうなかで、どういう家なのかを理解していった。見えなかったところに何本も太い梁(はり)が通っていて、部屋の上には竹と筵(むしろ)の天井があった。床下では、柱が石の上に乗っていた。
改修にあたって、私たちは、家をなるべく元の姿に近づけたいと思った。30年ほど前に設置されたらしい壁は取り除くことにして、部屋と部屋の間は板戸やガラス戸などの建具で仕切るようにした。
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建具のことでは、京都市内の夷川通り(えびすがわどおり)にある古建具屋さんにお世話になった。「こういうのが欲しいのですが…」と話をすると、よさそうなものを探しておいてくれて、店を訪ねると、たくさんの建具がぎっしり詰まった倉庫に連れていってもらえた。
古建具屋さんは、木で編まれた網代戸(あじろど)を紹介してくれた。網代戸というのは、これまでの自分たちの生活のなかにはなかったし、考えてもいなかったけれど、軽くて通気性がよく、風情がある。保温を重視しなくてよいところなら、網代戸も魅力的だった。風呂場(脱衣所)の入口の戸や、トイレの戸は、網代戸にすることにした。
玄関を入って正面の建具は、筬格子(おさごうし)のものになった。「筬格子」という言葉も、古建具屋さんから聞いて初めて知った。細い木材が小さな釘で止められていて、きめ細かい格子になっている。
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板戸やガラス戸も、私たちの希望に合うものをそろえてもらって、全部で16枚の建具を譲っていただいた。
ちなみに、古建具の値段は穏やかなものだった。あくまで「中古品」の値段で、「骨董品」の値段ではない。ありがたかったけれど、建具の立派さを考えると、なんだか申し訳ない気もした。
私の素人感覚からすると、我が家に来た建具は、貴重なもので、骨董品のようなものだと思う。昔風のガラス戸には、模様の入ったガラスや、光が微妙に歪むガラスなど、最近では見かけることの少ないものが使われている。筬格子の建具も、今はもう作るのが難しくなっているらしい。
ついでに言うと、古建具屋さん自体も、貴重な存在だ。以前は夷川通りに建具の店が何軒もあったそうだけれど、なくなってきてしまっている。どうも寂しい話だ。技術や文化が失われつつあることを感じる。
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