『よなよなエールがお世話になります』のレビュー
2016年4月発売。よなよなエールの社長が、その創業記録をつづった内容。
そもそも「よなよなエール」とは、星野リゾートグループ傘下の地ビール会社。今でこそ近所のスーパーでも見かけるようになりましたが、まだ誰にも知られていなかったその誕生時の話から、存亡の危機を経て現在に至るまでの紆余曲折のエピソードが、社長の赤裸々な言葉とともに書かれています。たまに泣けます。
本書のせいですっかりファンに
この本を読んで、すっかりよなよなエールのファンになってしまいましたw
よなよなエールは、スーパーの隅っこにある「ちょっと変わったビール」だったのが、私にとって「ちょっと特別なビール」に。
ふだんはビールをあまり飲まないのに、この本のせいで(おかげで?)よなよなエールを何本か飲みました。しかも満足感たっぷりに。
これって、よなよなエールの想いとか苦労したこととか熱い気持ちをこの本を通じて知ったことで、愛着とまではいかないまでも、特別な感情を抱いたからだろうと感じました。
私はビールや酒類に特別なこだわりはなくて、いざ買うときに、毎回何を買おうか決められなくて困っているくらいです。そんなところに、ちょっとしたエピソードを知ったよなよなエールが来れば、それをつい買ってしまうのが人間の性とは言えないでしょうか?
関係なさそうなカップヌードルミュージアムの話
先日、私は横浜の「カップヌードルミュージアム」に行きました(おすすめです!)
カップヌードルの創業記や製造方法などを展示と体験を通じて楽しめる場所で、自分だけのカップヌードルを作れたりもするエンターテインメント施設。
それ以来、一緒に行った息子とともにすっかりカップヌードルのファンになってしまい、毎週のようにカップヌードルを食べています(正当な理由でご飯作りを手抜きできるのもいいw)「単なるカップヌードル」が「少し特別なカップヌードル」になったわけです。
話それちゃいましたが・・・
その商品にまつわるエピソードやストーリー、体験などが購入動機につながってくるということは、それがどんな商品であってもあるんじゃないでしょうか。
商品情報以外のネタが購入動機になりえる
まして情報量が歴史的にみても爆発的な今の時代、購入動機として、単純な商品情報以外のインフォメーションは、ますます大事になってきます。
・・・という内容は以前紹介した『ファンベース』にもたくさん書いてあります。
エピソードや、商品にまつわるウンチク、開発過程のこぼれ話など、作り手にとっては些細と思える話も、顧客には刺さり、それが購入動機になりえることがある・・・
本書がよなよなエールの購入きっかけとなったのと同じように、おそらく、SNSをはじめとした広報もそれと同じ役割を果たすことができるんじゃないかと感じました(私は現在、広報でSNSやデジタルメディアを担当しているので)。
つまり、上記のような商品とは直接的には関係ない「柔らかい情報」(私の造語です)を伝えることがSNSの役割として重要なんじゃないかという意味です。
メルマガでウケがよかった内容
本書では残念ながらSNSの使い方については言及されていません。ただ、よなよなエールのメルマガの話は参考になるかもしれません。
倒産の危機にあったよなよなエールを回復に導いたのは、楽天での販売だったそうです。その際に、社長自らがビールのことについてメルマガを書きまくったそうで、そこでウケがよかったのは、
「ビールのうんちく、醸造設備のことなどは特に反応がよかった。一方、「ポイント二倍キャンペーン実施中」といった内容や「秋は『よなよなエール』と旬のお野菜で!」といった内容は反応が薄かった(p.126)」
あとは、自分らしく素の状態で書いたものも評判がよかったとか。
つまり、販売とは直結しない(ように見える)情報のウケがよく、そうした情報がよなよなファンをつくるのに役立ったという内容です。
メルマガとSNSが同じとは言いませんが、エッセンスはそのまま企業のSNSにも応用できるんじゃないかと思います。
SNSでは、形式ばった商品紹介やイベント告知をメインにせず(もちろんそれらはたまに必要)その企業からしか語れない内容=柔らかい情報を発信することが効果的なんじゃないかということです。
この柔らかい情報が、顧客の中において、その商品・サービス自体を他社・他商品とは違った「特別な」ものにし、愛着や親近感の醸成につながっていくはず・・・やや拡大解釈気味ですが、そんな風に思います。
その他気付き
というわけで、本のレビューなんだか、本から気付いたことなのか、判然としない内容になってしまいましたが、いろんな気付きを与えてくれる本だったことは間違いないという意味で良書です。
なんだかレビューとしてのまとまりが悪くなりそうなので、以下、気になったことを箇条書きで紹介して終わりにしますね。
▼よなよなエールは「宴」もしくは「超宴」といわれるファンミーティングが有名で、これは社長がハーレーダビッドソンのファンミーティングに参加したことがきっかけで始めたそうです。
▼よなよなエールではミッションとして「知的な変わり者」というのを掲げています。この価値観を顧客も支持していて、それを軸に企業と顧客がつながっているのは興味深いと思いました。
▼企業にとっては価値がないと思えても、顧客にとってはたまらない価値、という例も本書にはたくさん出てきて、それだけでも参考になります。たとえばファンにとって一番ウケるのは醸造所見学で、ただ、当初は工場を見せるのが顧客にとって楽しいなんて考えも及ばなかった等。